碧ちゃんの話
12
あの碧ちゃんが誰かに恋をして、その相手と対等の立場になって、結婚して、子供を抱く。
想像してみたけれど、すぐに諦めた。夜に太陽が出るところを想像するようなものだ。自分の拙い想像力では手に余る。
「千恵理は結婚しないし子供も作らないと言い切っていますしね。……仕方がありませんが」
その仕方ない、は千恵理の意志が強いからという意味ではなく、そう思ってしまっても仕方ない理由があるからだという意味に聞こえた。
小岩井の家の事情が複雑なのだろうことは、今までの事からも推測できる。
「ですが曾祖母としては、玄孫を……三人全員の子を、見てから死にたいのですよ」
それは当然のことだろう。自分は勿論子供を、まして玄孫など持ったことはないけれど、それが可愛いだろうことは想像ができる。
自分が産んで育ててきた子が大人になって子を産むのだ。更にその子が大人になるところを見守って、次の子が産まれる。それが四人分積み重ねられた集大成なのだ。可愛くないわけがない。
「あの子達が、よそ様からはそう思われないとしても本人たちは幸せになって、あたしは玄孫を抱いてしあわせになる。それが今のあたしの夢なんですよ」
その様子を想像しているのだろう桜子さんのその表情は、曾孫たちが可愛くて仕方ない、子煩悩の親の顔にしか見えなかった。
本人達の事を思って、それを隠してああいう接し方が出来るこの人は、本当に強い人なんだと、そう思う。
こんこん、と病室のドアがノックされた。
「はい」
そう返事をすると、ドアを開けて入って来たのは今度こそ看護師を連れた医師だった。
手に書類のような物を持っているのは、恐らく精密検査の結果だろう。
特に緊張した様子もないその表情を見れば、特に問題が無かったことがわかる。桜子さんがほっとしたように息を吐いたのがわかった。
多分自分が緑を見た時も、同じ表情をしていたと思う。
医師はこちらに挨拶をして名前を確認した後、書類を見ながら看護師に指示を出していた。
「兄さん、帰りの事ですけれど……」
少し待つことになるとわかって、その間に出来る話をしておこうと思ったのだろう。桜子さんがこちらへと声を掛けてきた。
「ハイヤーを呼びますからどうか使ってください。勿論、行き帰りの交通費は治療費の内ですから」
ハイヤーというのは大袈裟だと思うけれど、救急車に乗せられた時間を考えれば、普段ならともかく今歩いて帰るのはあまり現実的ではない。これだけ大きい病院ならば近くにバス停くらいはあるだろけれど、押されてぶつかって悪化……なんてことになれば医療費が余分にかかる事になる。
桜子さんのその申し出は当然と言えたけれど。
「いえ」
首を振る。
「この腕のせいで通院に時間が掛かる事も、電車に乗りたいのに乗れないことも、損失でしょう? その分はもう千恵理に預かって貰っていますから」
それを桜子さんに出させてしまうのは、逆にそちらの方が損失だ。申し訳なくてハイヤーの中で縮こまっていなくてはいけなくなってしまう。
それを聞いた桜子さんは一瞬、驚いた様に目を見開いたけれど、すぐに口元を隠して微笑んだ。
「成程。あの子が気に入るわけです」
それは納得がいったというか、満足が行ったというか。そんな表情だった。
想像してみたけれど、すぐに諦めた。夜に太陽が出るところを想像するようなものだ。自分の拙い想像力では手に余る。
「千恵理は結婚しないし子供も作らないと言い切っていますしね。……仕方がありませんが」
その仕方ない、は千恵理の意志が強いからという意味ではなく、そう思ってしまっても仕方ない理由があるからだという意味に聞こえた。
小岩井の家の事情が複雑なのだろうことは、今までの事からも推測できる。
「ですが曾祖母としては、玄孫を……三人全員の子を、見てから死にたいのですよ」
それは当然のことだろう。自分は勿論子供を、まして玄孫など持ったことはないけれど、それが可愛いだろうことは想像ができる。
自分が産んで育ててきた子が大人になって子を産むのだ。更にその子が大人になるところを見守って、次の子が産まれる。それが四人分積み重ねられた集大成なのだ。可愛くないわけがない。
「あの子達が、よそ様からはそう思われないとしても本人たちは幸せになって、あたしは玄孫を抱いてしあわせになる。それが今のあたしの夢なんですよ」
その様子を想像しているのだろう桜子さんのその表情は、曾孫たちが可愛くて仕方ない、子煩悩の親の顔にしか見えなかった。
本人達の事を思って、それを隠してああいう接し方が出来るこの人は、本当に強い人なんだと、そう思う。
こんこん、と病室のドアがノックされた。
「はい」
そう返事をすると、ドアを開けて入って来たのは今度こそ看護師を連れた医師だった。
手に書類のような物を持っているのは、恐らく精密検査の結果だろう。
特に緊張した様子もないその表情を見れば、特に問題が無かったことがわかる。桜子さんがほっとしたように息を吐いたのがわかった。
多分自分が緑を見た時も、同じ表情をしていたと思う。
医師はこちらに挨拶をして名前を確認した後、書類を見ながら看護師に指示を出していた。
「兄さん、帰りの事ですけれど……」
少し待つことになるとわかって、その間に出来る話をしておこうと思ったのだろう。桜子さんがこちらへと声を掛けてきた。
「ハイヤーを呼びますからどうか使ってください。勿論、行き帰りの交通費は治療費の内ですから」
ハイヤーというのは大袈裟だと思うけれど、救急車に乗せられた時間を考えれば、普段ならともかく今歩いて帰るのはあまり現実的ではない。これだけ大きい病院ならば近くにバス停くらいはあるだろけれど、押されてぶつかって悪化……なんてことになれば医療費が余分にかかる事になる。
桜子さんのその申し出は当然と言えたけれど。
「いえ」
首を振る。
「この腕のせいで通院に時間が掛かる事も、電車に乗りたいのに乗れないことも、損失でしょう? その分はもう千恵理に預かって貰っていますから」
それを桜子さんに出させてしまうのは、逆にそちらの方が損失だ。申し訳なくてハイヤーの中で縮こまっていなくてはいけなくなってしまう。
それを聞いた桜子さんは一瞬、驚いた様に目を見開いたけれど、すぐに口元を隠して微笑んだ。
「成程。あの子が気に入るわけです」
それは納得がいったというか、満足が行ったというか。そんな表情だった。
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プロフィール
- 名前
- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
- 文章を書く関係ならなんでも。
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