碧ちゃんの話
2
こんこん、と玄関のドアがノックされた。
誰だろう、と一瞬考える。友人どころか知人すらほぼいないこの部屋を訪れるのは千恵理しかいないけれど、千恵理は昨日来たばかりだ。
昨日……あの後、最初に桜子さんが言っていた様に寿司屋に行ったらしい千恵理は、その土産だと寿司折を持ってやってきた。
気にしなくていいと言ったのだけれど、骨折で飲めない自分につき合って千恵理も飲まずにいて、当然酔い潰れる事もなくその日の内に帰って行った。気にしなくていいと言われたからと言って、本当に気にせずに飲んで美味しいなどと言える性格ではない事は、短い付き合いでも知っている。
今まで、千恵理はいつも一日おきに来ていたから、今日は来ないだろうと思っていた。とはいえ今までは、でしかないし、考え方を変えて見れば、来るのはいつも帰った次の日だったとも言える。
であれば今まで通りだと言えるのかもしれないけれど、だとしても、今までは来る直前には連絡をして来るのがいつものことだった。
通話やメールのような畏まった物ではなく、携帯を三度ほどコールさせて気付かせて、名前を残して合図するだけのやり方。
他人の部屋に上がり込む時にはただいまと言う気安さと、にも拘らずきちんと連絡をする気遣い。その辺りのバランスの上手さが、自分のような者にも不快を感じさせない理由なのだろう。
いずれにしてもあまり待たせる訳にもいかない。
玄関へと出て、ドアを開けた。
少女がいた。
空の青色のワンピースを纏い、その胸元や腰回りには空に浮かぶ雲の白があしらわれている。
その空へと向けて背筋は真っ直ぐと伸ばされ、その視線はこちらへと向けて真っ直ぐと見据えられている。その背筋と同じ様に真っ直ぐに背中へと流れて隠れる艶やかな黒髪が、その姿の青と白とを際立たせていた。
「こんにちは」
視線を真っ直ぐこちらへ向けたまま、少女が僅かに目を細めた。
「昨日は緑がお世話になりまして、ありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げる。
その動きに合わせて背中を覆う黒髪がさらりと流れ、両手で体の前に下げられた保冷らしいトートバッグが揺れた。
しっかりと頭を上げて視線をこちらへと向け直してから続ける。
「家族全員でお礼をしましたのに、わたくしだけしないというわけにはいきませんので、こうして参りました」
その視線はただ真っ直ぐというだけではなく、まるで反応を窺う様にこちらをじっと見詰めていた。
「いや、昨日も言った通り、お礼はもう充分して貰ったから」
多分、昨日のあれは桜子さんのお礼だから、自分の分の言葉以外のお礼はまた別で、という事なのだろう。
本当に、その見た目の奔放さに寄らずに律儀な娘だった。
そう言われた少女が、何やら複雑そうな表情をした。
「昨日といえば、今日の服は青色なんだね」
過剰な飾り物などはなく、ただ要所をワンポイント的に色を変えただけの控え目なデザインのワンピースは、イメージに合っていてよく似合っている。
それが青色なのも似合っている。似合ってはいるけれど、どうしても緑色の印象が強いので、違和感という程ではないけれど少し意外な感じが否めない。
そう言われて少女は何かを言おうと口を開いて、一泊おいてから溜息を吐いた。
確か前も同じ事をしていた。癖なのかもしれない。
「ほんっとーに、おにぃさんは騙せないのな」
普段の口調に戻って、緑はむしろほっとしたという様にそう言った。
誰だろう、と一瞬考える。友人どころか知人すらほぼいないこの部屋を訪れるのは千恵理しかいないけれど、千恵理は昨日来たばかりだ。
昨日……あの後、最初に桜子さんが言っていた様に寿司屋に行ったらしい千恵理は、その土産だと寿司折を持ってやってきた。
気にしなくていいと言ったのだけれど、骨折で飲めない自分につき合って千恵理も飲まずにいて、当然酔い潰れる事もなくその日の内に帰って行った。気にしなくていいと言われたからと言って、本当に気にせずに飲んで美味しいなどと言える性格ではない事は、短い付き合いでも知っている。
今まで、千恵理はいつも一日おきに来ていたから、今日は来ないだろうと思っていた。とはいえ今までは、でしかないし、考え方を変えて見れば、来るのはいつも帰った次の日だったとも言える。
であれば今まで通りだと言えるのかもしれないけれど、だとしても、今までは来る直前には連絡をして来るのがいつものことだった。
通話やメールのような畏まった物ではなく、携帯を三度ほどコールさせて気付かせて、名前を残して合図するだけのやり方。
他人の部屋に上がり込む時にはただいまと言う気安さと、にも拘らずきちんと連絡をする気遣い。その辺りのバランスの上手さが、自分のような者にも不快を感じさせない理由なのだろう。
いずれにしてもあまり待たせる訳にもいかない。
玄関へと出て、ドアを開けた。
少女がいた。
空の青色のワンピースを纏い、その胸元や腰回りには空に浮かぶ雲の白があしらわれている。
その空へと向けて背筋は真っ直ぐと伸ばされ、その視線はこちらへと向けて真っ直ぐと見据えられている。その背筋と同じ様に真っ直ぐに背中へと流れて隠れる艶やかな黒髪が、その姿の青と白とを際立たせていた。
「こんにちは」
視線を真っ直ぐこちらへ向けたまま、少女が僅かに目を細めた。
「昨日は緑がお世話になりまして、ありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げる。
その動きに合わせて背中を覆う黒髪がさらりと流れ、両手で体の前に下げられた保冷らしいトートバッグが揺れた。
しっかりと頭を上げて視線をこちらへと向け直してから続ける。
「家族全員でお礼をしましたのに、わたくしだけしないというわけにはいきませんので、こうして参りました」
その視線はただ真っ直ぐというだけではなく、まるで反応を窺う様にこちらをじっと見詰めていた。
「いや、昨日も言った通り、お礼はもう充分して貰ったから」
多分、昨日のあれは桜子さんのお礼だから、自分の分の言葉以外のお礼はまた別で、という事なのだろう。
本当に、その見た目の奔放さに寄らずに律儀な娘だった。
そう言われた少女が、何やら複雑そうな表情をした。
「昨日といえば、今日の服は青色なんだね」
過剰な飾り物などはなく、ただ要所をワンポイント的に色を変えただけの控え目なデザインのワンピースは、イメージに合っていてよく似合っている。
それが青色なのも似合っている。似合ってはいるけれど、どうしても緑色の印象が強いので、違和感という程ではないけれど少し意外な感じが否めない。
そう言われて少女は何かを言おうと口を開いて、一泊おいてから溜息を吐いた。
確か前も同じ事をしていた。癖なのかもしれない。
「ほんっとーに、おにぃさんは騙せないのな」
普段の口調に戻って、緑はむしろほっとしたという様にそう言った。
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プロフィール
- 名前
- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
- 文章を書く関係ならなんでも。
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