碧ちゃんの話
3
実際、碧ちゃんに似せようとしてか吊り目気味にしていた表情からも力が抜けて、かなり楽になったように見える。
「これ、どうやったらおにぃさんを騙せるか、千恵理と相談しながら選んだヤツなんだけどなぁ」
と胸の辺りの布地を引っ張り上げて見せた。夏用に大きめに開いた胸元が更に曝け出される。
という事は、昨日千恵理の服を買った時に一緒に買ったものなのだろう。姉妹仲がいいというのは良い事だと思う。
そしてそう聞いてから見直してみると、確かによく考えて選んだのだとわかる。
普段は活発な緑を一番女の子らしく見せるシンプルなデザインのワンピースに、碧ちゃんの色である青色。確かに、単純に碧ちゃんの服をそのまま着ているだけよりも、ずっと碧ちゃんに近く見えた。
ただ、自分一人を騙す為に服を一着買ってしまうというのは勿体ない気がするけれど、
「うん、よく似合ってるよ」
同じ色の服ばかりというのも良くないだろうし、そう考えればそこも含めて、この服は緑によく似合っている。選んだ理由はどうあれ、多分、無駄にはならないだろう。
「似合っててもしょーがねぇんだよなぁ」
そうは言いつつも、緑の様子はどこか嬉しそうに見えた。
「とりあえず、どうぞ」
そう言って、ドアを大きく開いて緑が中に入れるように脇に避ける。
お礼を言いに来た、というだけであれば、昨日何度も言って貰った。それが日を改めてわざわざこんなところまで来たのは、それ以外に何か理由があっての事なのだろう。
こんなところまで、と言っても緑がいつも遊び回っている通りから入り口をひとつくぐるだけだけれど。
「うん、お邪魔します」
緑は遠慮する様子もなく、上機嫌で部屋へと上がり込んだ。
お邪魔します、といいつつ、まるで自分の家に帰って来たかのような自然な様子に少し苦笑する。
そう言えば、いつもこの部屋に他人……千恵理が入って来る時はただいまばかりで、お邪魔しますというのは少し新鮮に感じた。
それにしても、以前の自分であればこんな簡単に他人を部屋に入れたりはしなかった。波風立てないように愛想良く笑顔でやんわりと、しかしはっきりと断っていただろう。
酔って判断力を失った勢いで千恵理を部屋に入れてしまってから、そのあたりの感覚がずれてしまっているのだと思う。
勿論、ただ酔っていたというだけであれば、それが誰であれ他人を部屋に入れる事など絶対になかっただろう。
ただ、千恵理のあの不快では無い程に遠く、他人という程には遠くはない距離感と、それを自分への気遣いとしての努力でしてくれているということが、酔った勢いでならば家に入れても良い……という気持ちにさせたのだと思う。
そして、その下がったハードルがあったとしても入れても良いと思ったのは、緑のこの自然に懐に入って来る人懐こさと、それを不快に感じさせる直前で踏みとどまるバランス感覚のせいだろう。
それが、緑がすることを苦笑しつつも受け入れるのが自然だという気持ちにさせてしまうのだと思う。
「うわ暑」
玄関から靴を脱いで上がったところで緑が足を止めた。
「いや、外よりは涼しいと思うけど」
風の通る日陰の玄関前はともかく、陽射しの照り付ける日向よりは格段に涼しい筈だ。
「うん、そうだけどさ。部屋の中って大抵冷房効いてるから、予想と違って驚いたというかさ」
安いだけが取り柄のこの部屋に冷房などは無い。
山際……というかほぼ山の中のこの町は、灼熱の真夏とは言っても下界に比べれば格段に涼しい。まして北向きな上に、窓の外の通りを挟んだ向こう側はすでに山のこの部屋は、森に阻まれてほぼ陽が入る事はない。その前の通りも山に向かう坂道で、少し上った先の神社へと繋がっている。多分、緑たちはその神社に併設された公園を拠点にしているのだろう。
山際のこの町の中でも更に山の端なのがこの部屋で、安ければなんでもいいという自分のような人間の為に風通し……隙間風も放置して値段を押さえているという好物件だった。
「これ、どうやったらおにぃさんを騙せるか、千恵理と相談しながら選んだヤツなんだけどなぁ」
と胸の辺りの布地を引っ張り上げて見せた。夏用に大きめに開いた胸元が更に曝け出される。
という事は、昨日千恵理の服を買った時に一緒に買ったものなのだろう。姉妹仲がいいというのは良い事だと思う。
そしてそう聞いてから見直してみると、確かによく考えて選んだのだとわかる。
普段は活発な緑を一番女の子らしく見せるシンプルなデザインのワンピースに、碧ちゃんの色である青色。確かに、単純に碧ちゃんの服をそのまま着ているだけよりも、ずっと碧ちゃんに近く見えた。
ただ、自分一人を騙す為に服を一着買ってしまうというのは勿体ない気がするけれど、
「うん、よく似合ってるよ」
同じ色の服ばかりというのも良くないだろうし、そう考えればそこも含めて、この服は緑によく似合っている。選んだ理由はどうあれ、多分、無駄にはならないだろう。
「似合っててもしょーがねぇんだよなぁ」
そうは言いつつも、緑の様子はどこか嬉しそうに見えた。
「とりあえず、どうぞ」
そう言って、ドアを大きく開いて緑が中に入れるように脇に避ける。
お礼を言いに来た、というだけであれば、昨日何度も言って貰った。それが日を改めてわざわざこんなところまで来たのは、それ以外に何か理由があっての事なのだろう。
こんなところまで、と言っても緑がいつも遊び回っている通りから入り口をひとつくぐるだけだけれど。
「うん、お邪魔します」
緑は遠慮する様子もなく、上機嫌で部屋へと上がり込んだ。
お邪魔します、といいつつ、まるで自分の家に帰って来たかのような自然な様子に少し苦笑する。
そう言えば、いつもこの部屋に他人……千恵理が入って来る時はただいまばかりで、お邪魔しますというのは少し新鮮に感じた。
それにしても、以前の自分であればこんな簡単に他人を部屋に入れたりはしなかった。波風立てないように愛想良く笑顔でやんわりと、しかしはっきりと断っていただろう。
酔って判断力を失った勢いで千恵理を部屋に入れてしまってから、そのあたりの感覚がずれてしまっているのだと思う。
勿論、ただ酔っていたというだけであれば、それが誰であれ他人を部屋に入れる事など絶対になかっただろう。
ただ、千恵理のあの不快では無い程に遠く、他人という程には遠くはない距離感と、それを自分への気遣いとしての努力でしてくれているということが、酔った勢いでならば家に入れても良い……という気持ちにさせたのだと思う。
そして、その下がったハードルがあったとしても入れても良いと思ったのは、緑のこの自然に懐に入って来る人懐こさと、それを不快に感じさせる直前で踏みとどまるバランス感覚のせいだろう。
それが、緑がすることを苦笑しつつも受け入れるのが自然だという気持ちにさせてしまうのだと思う。
「うわ暑」
玄関から靴を脱いで上がったところで緑が足を止めた。
「いや、外よりは涼しいと思うけど」
風の通る日陰の玄関前はともかく、陽射しの照り付ける日向よりは格段に涼しい筈だ。
「うん、そうだけどさ。部屋の中って大抵冷房効いてるから、予想と違って驚いたというかさ」
安いだけが取り柄のこの部屋に冷房などは無い。
山際……というかほぼ山の中のこの町は、灼熱の真夏とは言っても下界に比べれば格段に涼しい。まして北向きな上に、窓の外の通りを挟んだ向こう側はすでに山のこの部屋は、森に阻まれてほぼ陽が入る事はない。その前の通りも山に向かう坂道で、少し上った先の神社へと繋がっている。多分、緑たちはその神社に併設された公園を拠点にしているのだろう。
山際のこの町の中でも更に山の端なのがこの部屋で、安ければなんでもいいという自分のような人間の為に風通し……隙間風も放置して値段を押さえているという好物件だった。
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プロフィール
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- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
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