碧ちゃんの話
9
「様子見るだけだったら、わざわざ花輪にいかなくても、近くの接骨院とかでいいと思うんだけど」
緑はそうぶつぶつ呟き始めた。
「あの病院がどうかした?」
その様子は病院そのものが嫌いとかではなく、あの病院に行きたくないというように見えた。
そもそも、診察を受けるのは自分であって緑ではない。病院自体が嫌いというのならばともかく、緑があの病院に行くのを嫌がる理由はないと思うのだけれど。
「いや、なんていうか、あー」
緑はそう呟くと、天井を仰いだ。
「あ、そう、あの病院って看護師さんの制服がスカートじゃないんだよ。だから行っても仕方ないって言うかさ」
その表情は明らかに仕方ない、ではなく行きたくない、だったけれど、本人がそう言っているのだから、それについては触れなかった。
「というか、緑は行かなくていいんだからそんなに嫌がらなくてもいいんじゃないかな」
「え?」
なにやら悩む様子の緑にそう言うと、緑はなんで? という様に首を捻った。
「いや、おにぃさんが行くなら当然俺も行くよ。お世話しに来たって言ったじゃん?」
緑は何を当たり前のことを、という様にそう言うけれど、別に当たり前ではない。
「でも、付き添って貰っても、バスに乗りさえすれば病院までは座っているだけだし、病院につけばどうとでもなるだろうから、して貰える事もないだろうし」
歩くのも不自由だというのならば、支えて貰うとか荷物を持って貰うとか、付き添って貰えれば助かる事もあるかもしれないけれど、ただ単に片手が使えないだけで、歩けない訳でも物が持てないわけでもない。
その腕もギプスで固められて吊られているから別に負担にもならないし、持つ物も財布と保険証と診察券くらいだからポケットに入れておけば事足りる。
本人はそこまでしないと気が済まないという気持ちはわかるけれど、必要もない事で時間と手間を取らせてしまうのは申し訳なかった。
「でも、途中で痛みが酷くなって歩けなくなったりするかもしれないじゃん」
「それこそして貰えることはないよ。緑に治療が出来るならともかく。バスから病院まで、背負って連れて行ってくれるっていうのも無理だろうし」
緑の身長は、自分の胸くらいまでしかない。背負おうとしても、足が地面についてしまうだろう。体重ならば恐らく倍くらいはある。
背負って運ぶのは物理的に不可能だろうし、肩を借りるくらいでもかなり無理がある。
「まぁ碧じゃないんだから治療とかは無理だけどさ。でも、救急車を呼んだりとか」
「折れたその場ならまだしも、治療済みの骨折で救急車はやり過ぎだよ」
冷静になった今考えて見れば、あの時もただ骨折だけしかしていなかったのだから、救急車ではなくタクシーを呼ぶべきだったと思う。
自分のせいで怪我をさせたと動揺していた緑にそこまで気付けと言うのは無理があるけれど、骨を折っただけの自分はそこまで考えるべきだった。
命に関わるわけでもなく、歩けないわけでもないような怪我で救急車を呼んでしまう自分のような者が、医療現場を危機へと追いやってしまっているのだろう。
反省しなくてはいけない。
「あーもう、とにかく付いて行くから!」
「はい」
そう言われてしまえばもう言い返せることはない。頷いた。
「で? 病院は何時から?」
「えっと、二時からだったかな」
診察券を取り出して確認する。間違いない。
「ここからなら三十分もあれば着くから……おにぃさん、バスでいいの? ハイヤーの方が良いと思うけど?」
そう聞く緑にバスで、と答える。
歩くのに支障があるわけでもなく、別段痛みがあるわけでもない。これでタクシーなど使うのは勿体ない。
というか、緑が来なければ歩いて行こうかと思っていたのだ。
「じゃあ、えっと、……うん、一時半にここ出れば間に合うな。じゃあ、あと一時間半くらいか」
スマホで時刻表を確認したらしい緑が、時計を確認しながらそう言った。
緑がここに来たのが十一時くらいで、レトルトを温めてそれを食べただけだから、まだ正午にはなっていない。
「誇りを落として、箒を使って、ざっと拭いて……一時間半あればなんとかなるけど、ちゃんとは出来ないよな」
緑は何やらぶつぶつと言い始めた。
「いや、そんなにちゃんとしなくても大丈夫だから」
千恵理が来るようになってから少しくらい片付けるようにはなったけれど、それまでは掃除など殆どしたことはなかった。勿論、そこまでちゃんとした掃除をして貰う必要もありはしない。
「普段はそうかもしれないけど、これはお世話、普段とは違うことなんだから、そこまでするんだよ」
まぁ、緑がそこまでしないと納得できないというのならば仕方ない。
別に邪魔になるわけでもないし、こちらが損をするわけでもないし。
申し訳無い気になるだけで。
緑はそうぶつぶつ呟き始めた。
「あの病院がどうかした?」
その様子は病院そのものが嫌いとかではなく、あの病院に行きたくないというように見えた。
そもそも、診察を受けるのは自分であって緑ではない。病院自体が嫌いというのならばともかく、緑があの病院に行くのを嫌がる理由はないと思うのだけれど。
「いや、なんていうか、あー」
緑はそう呟くと、天井を仰いだ。
「あ、そう、あの病院って看護師さんの制服がスカートじゃないんだよ。だから行っても仕方ないって言うかさ」
その表情は明らかに仕方ない、ではなく行きたくない、だったけれど、本人がそう言っているのだから、それについては触れなかった。
「というか、緑は行かなくていいんだからそんなに嫌がらなくてもいいんじゃないかな」
「え?」
なにやら悩む様子の緑にそう言うと、緑はなんで? という様に首を捻った。
「いや、おにぃさんが行くなら当然俺も行くよ。お世話しに来たって言ったじゃん?」
緑は何を当たり前のことを、という様にそう言うけれど、別に当たり前ではない。
「でも、付き添って貰っても、バスに乗りさえすれば病院までは座っているだけだし、病院につけばどうとでもなるだろうから、して貰える事もないだろうし」
歩くのも不自由だというのならば、支えて貰うとか荷物を持って貰うとか、付き添って貰えれば助かる事もあるかもしれないけれど、ただ単に片手が使えないだけで、歩けない訳でも物が持てないわけでもない。
その腕もギプスで固められて吊られているから別に負担にもならないし、持つ物も財布と保険証と診察券くらいだからポケットに入れておけば事足りる。
本人はそこまでしないと気が済まないという気持ちはわかるけれど、必要もない事で時間と手間を取らせてしまうのは申し訳なかった。
「でも、途中で痛みが酷くなって歩けなくなったりするかもしれないじゃん」
「それこそして貰えることはないよ。緑に治療が出来るならともかく。バスから病院まで、背負って連れて行ってくれるっていうのも無理だろうし」
緑の身長は、自分の胸くらいまでしかない。背負おうとしても、足が地面についてしまうだろう。体重ならば恐らく倍くらいはある。
背負って運ぶのは物理的に不可能だろうし、肩を借りるくらいでもかなり無理がある。
「まぁ碧じゃないんだから治療とかは無理だけどさ。でも、救急車を呼んだりとか」
「折れたその場ならまだしも、治療済みの骨折で救急車はやり過ぎだよ」
冷静になった今考えて見れば、あの時もただ骨折だけしかしていなかったのだから、救急車ではなくタクシーを呼ぶべきだったと思う。
自分のせいで怪我をさせたと動揺していた緑にそこまで気付けと言うのは無理があるけれど、骨を折っただけの自分はそこまで考えるべきだった。
命に関わるわけでもなく、歩けないわけでもないような怪我で救急車を呼んでしまう自分のような者が、医療現場を危機へと追いやってしまっているのだろう。
反省しなくてはいけない。
「あーもう、とにかく付いて行くから!」
「はい」
そう言われてしまえばもう言い返せることはない。頷いた。
「で? 病院は何時から?」
「えっと、二時からだったかな」
診察券を取り出して確認する。間違いない。
「ここからなら三十分もあれば着くから……おにぃさん、バスでいいの? ハイヤーの方が良いと思うけど?」
そう聞く緑にバスで、と答える。
歩くのに支障があるわけでもなく、別段痛みがあるわけでもない。これでタクシーなど使うのは勿体ない。
というか、緑が来なければ歩いて行こうかと思っていたのだ。
「じゃあ、えっと、……うん、一時半にここ出れば間に合うな。じゃあ、あと一時間半くらいか」
スマホで時刻表を確認したらしい緑が、時計を確認しながらそう言った。
緑がここに来たのが十一時くらいで、レトルトを温めてそれを食べただけだから、まだ正午にはなっていない。
「誇りを落として、箒を使って、ざっと拭いて……一時間半あればなんとかなるけど、ちゃんとは出来ないよな」
緑は何やらぶつぶつと言い始めた。
「いや、そんなにちゃんとしなくても大丈夫だから」
千恵理が来るようになってから少しくらい片付けるようにはなったけれど、それまでは掃除など殆どしたことはなかった。勿論、そこまでちゃんとした掃除をして貰う必要もありはしない。
「普段はそうかもしれないけど、これはお世話、普段とは違うことなんだから、そこまでするんだよ」
まぁ、緑がそこまでしないと納得できないというのならば仕方ない。
別に邪魔になるわけでもないし、こちらが損をするわけでもないし。
申し訳無い気になるだけで。
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プロフィール
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- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
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