碧ちゃんの話
11
「じゃあ、まずは婆の方から……ってその前に」
緑は二人分の皿を持って台所へと向かい、それを流しに置くと冷凍庫を開けた。
「はい、おにぃさん。アイス」
すっかり忘れていたけれど、そう言えば最初にそんなことを言っていた。
「うん、ありがとう」
緑に差し出されたアイスを受け取る。
今までの事を考えると何種類か用意してある中から選べるようにしているのかと思ったが違うらしい。それだけ、これが緑のオススメということなのだろう。
全国チェーンのアイスクリーム店のカップに入った、緑と白のマーブル模様のアイスクリーム。
一瞬抹茶ミルクかと思ったけれど、違うらしい。緑色が抹茶よりも鮮やかだし、カラフルなトッピングのような物が練り込まれている。クリームソーダだろうか。
「じゃ、プレイヤー借りるよー」
「うん、どうぞ」
一応、BDプレイヤーもありはする。だが使ったのは最初の内だけで、もう一年以上使っていない。
テレビも今ではすっかり隣に置かれたパソコンのサブモニタになってしまっていた。
プレイヤーの前に座った緑がトレイを開けて、ディスクを放り込む。もしかして壊れているかもしれない、と心配していたがどうやら大丈夫ようだ。
「はい、じゃあポチっとなっと」
渡してやったリモコンを操作して、緑がBDを再生した。こちらも電池が切れているという事はなかったらしい。
画面に白黒の桜の花が映り、少し間をおいて手書きのタイトルが表示された。
『また春が来たら』
パッケージに書かれていたそのままのタイトルだ。
「せっかくだから、溶ける前に食べてよ」
そう言ってアイスを食べ始めた緑に倣って、自分もアイスを掬って口に入れる。
味わってみると、クリームソーダとも少し違う気がする。
こういうアイスクリームはあまり食べないのでどう説明すればいいのかわからないけれど、この緑色で、鮮やかで、爽やかで口の中で弾けるような賑やかな刺激的な味は、緑によく似ていた。
何の味か結局わからないその二口目を食べながら、画面へと目を戻す。
タイトルの桜の花のアップから画面がひいて桜の木全体を映し、その下を仲良さそうな家族たちが歩いて行く場面から、映画は始まった。
厳格ながらも暖かく家族を見守る父親と、その父の一歩後ろで従いながらも見えないところでは子供たちを甘やかそうとする母親と、元気にはしゃぎ回る弟と妹たち、そしてその弟たちに手を焼きながらも楽し気に面倒を見る、桜子さん演じる主人公である長女。
恐らく、当時の理想的な家族の姿なのだろう。その幸せな姿が、あくまで冒頭でしかない短い尺の中で、効果的に丁寧に描かれていた。
話はその家族を失って自分一人だけ生き残り、絶望に暮れていた主人公が、歌手という職業を通して人々に希望を与えていくうちに自分も希望を取り戻していくという風に展開していく。
ある意味王道の……言ってしまえばよくある話だった。
だが、それは現代であればの話。
この映画が製作された当時は、今と比べて撮影機材は高価で数も少なく、全国に映画館があるという状況ではなかった筈だ。
しかも、家庭にビデオデッキなど無く、そちらの売り上げなど最初から考えられてすらいない時代。
現在よりも撮影費用を回収することもずっと難しかった筈だ。
当然、興行的には映画にするだけの価値のある話……ラブロマンスや派手な冒険活劇などが中心であり、歌手という非日常が含まれているとは言え、家族を失った女性の成長という、いわば日常物を映画として作り上げるのは一種の冒険だっただろう。
現代では当たり前のものだったとしても、この時は映画の黎明期……それも日常物は一般的と言える物ではなかった筈だ。
何かの真似事ではないオリジナルの凄みのような物が、そこには確かにあった。
けれど、その中で一番凄いのは間違いなく主演女優……桜子さんだった。
演技としては当時の流行りだろう、演劇のような不自然に大袈裟な動きが目立ったけれど、それも嫌味には感じさせずに人を引き付ける、現在でも十分に通じるだろうと思わせるものだった。
昨日会った時の様な、齢を重ねて研ぎ澄まされた鋭さのような物はまだないけれど、いずれそれに至るであろう、ただそこにいるだけでその存在を感じずにはいられないオーラのような物が確かにそこにはあった。
もう何十年も前の白黒の映画が、こうして映像処理を施されてまで最新BD化されているのだ。きっと、名作と呼ばれる物なのだろうし、こうして見てみればすぐにそれがわかる。
そんなことを考えながら、ちらと緑の様子を窺う。
自分にとっては充分興味深い映画ではある。白黒であることも、解像度が低いからこその味のような物も、時代がかったような内容も、どれも良い物だと思える。
けれど、緑のようなタイプ……それも現在の技術での美しい映像や精錬された脚本、臨場感あふれるカメラワークなどを見慣れた者にとってはいくら家族が出演しているとはいえ、退屈なのではないだろうか。
けれど、映像処理をしても現在の物とは比べ物にならない、色のない画面を見つめる緑の瞳は真剣だった。
緑は二人分の皿を持って台所へと向かい、それを流しに置くと冷凍庫を開けた。
「はい、おにぃさん。アイス」
すっかり忘れていたけれど、そう言えば最初にそんなことを言っていた。
「うん、ありがとう」
緑に差し出されたアイスを受け取る。
今までの事を考えると何種類か用意してある中から選べるようにしているのかと思ったが違うらしい。それだけ、これが緑のオススメということなのだろう。
全国チェーンのアイスクリーム店のカップに入った、緑と白のマーブル模様のアイスクリーム。
一瞬抹茶ミルクかと思ったけれど、違うらしい。緑色が抹茶よりも鮮やかだし、カラフルなトッピングのような物が練り込まれている。クリームソーダだろうか。
「じゃ、プレイヤー借りるよー」
「うん、どうぞ」
一応、BDプレイヤーもありはする。だが使ったのは最初の内だけで、もう一年以上使っていない。
テレビも今ではすっかり隣に置かれたパソコンのサブモニタになってしまっていた。
プレイヤーの前に座った緑がトレイを開けて、ディスクを放り込む。もしかして壊れているかもしれない、と心配していたがどうやら大丈夫ようだ。
「はい、じゃあポチっとなっと」
渡してやったリモコンを操作して、緑がBDを再生した。こちらも電池が切れているという事はなかったらしい。
画面に白黒の桜の花が映り、少し間をおいて手書きのタイトルが表示された。
『また春が来たら』
パッケージに書かれていたそのままのタイトルだ。
「せっかくだから、溶ける前に食べてよ」
そう言ってアイスを食べ始めた緑に倣って、自分もアイスを掬って口に入れる。
味わってみると、クリームソーダとも少し違う気がする。
こういうアイスクリームはあまり食べないのでどう説明すればいいのかわからないけれど、この緑色で、鮮やかで、爽やかで口の中で弾けるような賑やかな刺激的な味は、緑によく似ていた。
何の味か結局わからないその二口目を食べながら、画面へと目を戻す。
タイトルの桜の花のアップから画面がひいて桜の木全体を映し、その下を仲良さそうな家族たちが歩いて行く場面から、映画は始まった。
厳格ながらも暖かく家族を見守る父親と、その父の一歩後ろで従いながらも見えないところでは子供たちを甘やかそうとする母親と、元気にはしゃぎ回る弟と妹たち、そしてその弟たちに手を焼きながらも楽し気に面倒を見る、桜子さん演じる主人公である長女。
恐らく、当時の理想的な家族の姿なのだろう。その幸せな姿が、あくまで冒頭でしかない短い尺の中で、効果的に丁寧に描かれていた。
話はその家族を失って自分一人だけ生き残り、絶望に暮れていた主人公が、歌手という職業を通して人々に希望を与えていくうちに自分も希望を取り戻していくという風に展開していく。
ある意味王道の……言ってしまえばよくある話だった。
だが、それは現代であればの話。
この映画が製作された当時は、今と比べて撮影機材は高価で数も少なく、全国に映画館があるという状況ではなかった筈だ。
しかも、家庭にビデオデッキなど無く、そちらの売り上げなど最初から考えられてすらいない時代。
現在よりも撮影費用を回収することもずっと難しかった筈だ。
当然、興行的には映画にするだけの価値のある話……ラブロマンスや派手な冒険活劇などが中心であり、歌手という非日常が含まれているとは言え、家族を失った女性の成長という、いわば日常物を映画として作り上げるのは一種の冒険だっただろう。
現代では当たり前のものだったとしても、この時は映画の黎明期……それも日常物は一般的と言える物ではなかった筈だ。
何かの真似事ではないオリジナルの凄みのような物が、そこには確かにあった。
けれど、その中で一番凄いのは間違いなく主演女優……桜子さんだった。
演技としては当時の流行りだろう、演劇のような不自然に大袈裟な動きが目立ったけれど、それも嫌味には感じさせずに人を引き付ける、現在でも十分に通じるだろうと思わせるものだった。
昨日会った時の様な、齢を重ねて研ぎ澄まされた鋭さのような物はまだないけれど、いずれそれに至るであろう、ただそこにいるだけでその存在を感じずにはいられないオーラのような物が確かにそこにはあった。
もう何十年も前の白黒の映画が、こうして映像処理を施されてまで最新BD化されているのだ。きっと、名作と呼ばれる物なのだろうし、こうして見てみればすぐにそれがわかる。
そんなことを考えながら、ちらと緑の様子を窺う。
自分にとっては充分興味深い映画ではある。白黒であることも、解像度が低いからこその味のような物も、時代がかったような内容も、どれも良い物だと思える。
けれど、緑のようなタイプ……それも現在の技術での美しい映像や精錬された脚本、臨場感あふれるカメラワークなどを見慣れた者にとってはいくら家族が出演しているとはいえ、退屈なのではないだろうか。
けれど、映像処理をしても現在の物とは比べ物にならない、色のない画面を見つめる緑の瞳は真剣だった。
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プロフィール
- 名前
- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
- 文章を書く関係ならなんでも。
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