碧ちゃんの話
4
千恵理に続いてエレベーターに乗り込む。
病棟のナースステーションを経由しなければ来られない作りになっているという事は、この先にあるのも病室なのだろう。
千恵理がボタンを操作すると、一瞬体が浮き上がる様な感覚がした。どうやらエレベーターは下に向かっているらしい。
病室に向かうのならば上に上がる筈だ。どういうことだろう、と階層の表示に視線を向ける。
そこには、今いる3Fの他には三階分を飛ばしたB2Fの表示しかなかった。
病室にはナースステーションを経由しなければいけない構造にするのは理解出来る。
平地の少ないこの街で地下まで有効利用しようというのも理解出来る。
しかし、何故こんな構造にしてまで地階に病室を作ったのかがわからない。
地下一階の表示がないのは、病室以外のことに使われているからだと思う。この病院がどういう作りになっているのかはわからないけれど、恐らく霊安室や倉庫などなのだろう。
それらのある階にこのエレベーターで行けるという事は、他の階からもナースステーションを通らずにこの先の病室に行けてしまうということなのだから。
流石に避難用の非常階段くらいはあるのだろう。けれど、わざわざこんな作りにしているという事は、恐らく通常の方法でこの先の病室に行けるのは、このエレベーターだけなのだろう。
それも、隠されたような位置に加えて関係者以外立ち入り禁止の札がかかっていたことから考えれば、ここから先は隔離病棟と呼ばれるものなのだろうと推測がついた。
一瞬、体が沈み込む様な感覚の後に扉が開く。
最初に感じたのは薄暗さだった。問題がある程の暗さではないけれど、エレベーターの中、そして上の階の病棟よりは明らかに暗い。
扉の外は、またエレベーターホールだった。広さは三階と同じ、ストレッチャーが向きを変えられる程度。その真正面から真っ直ぐに通路が伸びている。突き当りまで障害物になる様なものはなく、一直線に見渡せるようになっていた。
千恵理はその通路を真っ直ぐに進んでいく。他に行けるところはないのだから当然だけれど。
通路の左右には、等間隔に扉が並んでいた。
普通の病棟にあるような、恐らく入院患者の物だろう名札の付いた病室の扉と、それよりは少し小ぶりな無機質な扉とが交互になっている。
千恵理はその内の、一番奥の病室らしい扉のひとつ前の小ぶりな扉の前で足を止めた。
ドアノブはついていない。脇にカードリーダーがあるところを見ると、これも関係者以外は入れないようになっている自動扉なのだろう。
ひとつ奥の病室の扉に視線を向ける。ここからは斜めになってしまっていてよくわからないけれど、辛うじて『小岩井』と書いてある事だけはわかった。
千恵理がすぅと、ひとつ息を吸った。
「……一応防音にはなってるけど、大きな音は立てないようにね」
病室で静かにするのは当たり前だと思うけれど、恐らくそういう事ではないのだろう。
その千恵理の雰囲気に呑まれるように、黙って頷いて見せた。
「じゃ、行きます」
思い切るようにそう告げて、千恵理はカードをリーダーに翳した。
自動扉が音もなく開く。
その中は、薄暗い部屋だった。
中の光源は薄ぼんやりした明かりだけで、到底病室の広さではない。人が三人も入れば椅子を置く場所もないだろう。
成程、廊下が暗かったのは、この部屋に入る明かりを少しでも抑える為なのだろう。何故なのか、まではわからないけれど。
千恵理の後に部屋に入る。その背後で扉が自動で閉まり、廊下から入り込んでいた光を遮断した。
部屋に入ってようやく気が付いたけれど、部屋の奥、病室があるだろう側に窓が付いていた。今はスライド式の板で覆われている。
千恵理はその板を僅かにずらし、片目で覗き込んで、その向こうの様子を確かめた。
それからこちらに向き直って頷いた後、その窓をゆっくりと開けた。
ガラス越しに向こうの部屋の様子が見える。やはり隣の部屋は病室だったらしい。
大きなベッドが置かれ、そこに病院着姿の女性が横になっている。その腕にはおくるみに包まれた赤子が抱かれ、その母子を覗き込むようにして、父親らしい男性が立っていた。その奥にあるベッドは、父親が付き添いで寝泊まりする為の物なのだろう。
見る限り、普通に病院で出産をした親子の姿だった。父親が泊まり込みで世話をするというのは、余程愛されているのだろうとは思うけれど。
それが、この物々しい病棟の一室でさえなければ。
いや、よくよく見て見れば、それだけでは無かった。
母親の抱く姿が自然過ぎて、それを見詰める父親の視線が優し過ぎてすぐには気付かなかったけれど。
そのおくるみに包まれた赤ん坊は、女の子の姿をしたぬいぐるみだった。
病棟のナースステーションを経由しなければ来られない作りになっているという事は、この先にあるのも病室なのだろう。
千恵理がボタンを操作すると、一瞬体が浮き上がる様な感覚がした。どうやらエレベーターは下に向かっているらしい。
病室に向かうのならば上に上がる筈だ。どういうことだろう、と階層の表示に視線を向ける。
そこには、今いる3Fの他には三階分を飛ばしたB2Fの表示しかなかった。
病室にはナースステーションを経由しなければいけない構造にするのは理解出来る。
平地の少ないこの街で地下まで有効利用しようというのも理解出来る。
しかし、何故こんな構造にしてまで地階に病室を作ったのかがわからない。
地下一階の表示がないのは、病室以外のことに使われているからだと思う。この病院がどういう作りになっているのかはわからないけれど、恐らく霊安室や倉庫などなのだろう。
それらのある階にこのエレベーターで行けるという事は、他の階からもナースステーションを通らずにこの先の病室に行けてしまうということなのだから。
流石に避難用の非常階段くらいはあるのだろう。けれど、わざわざこんな作りにしているという事は、恐らく通常の方法でこの先の病室に行けるのは、このエレベーターだけなのだろう。
それも、隠されたような位置に加えて関係者以外立ち入り禁止の札がかかっていたことから考えれば、ここから先は隔離病棟と呼ばれるものなのだろうと推測がついた。
一瞬、体が沈み込む様な感覚の後に扉が開く。
最初に感じたのは薄暗さだった。問題がある程の暗さではないけれど、エレベーターの中、そして上の階の病棟よりは明らかに暗い。
扉の外は、またエレベーターホールだった。広さは三階と同じ、ストレッチャーが向きを変えられる程度。その真正面から真っ直ぐに通路が伸びている。突き当りまで障害物になる様なものはなく、一直線に見渡せるようになっていた。
千恵理はその通路を真っ直ぐに進んでいく。他に行けるところはないのだから当然だけれど。
通路の左右には、等間隔に扉が並んでいた。
普通の病棟にあるような、恐らく入院患者の物だろう名札の付いた病室の扉と、それよりは少し小ぶりな無機質な扉とが交互になっている。
千恵理はその内の、一番奥の病室らしい扉のひとつ前の小ぶりな扉の前で足を止めた。
ドアノブはついていない。脇にカードリーダーがあるところを見ると、これも関係者以外は入れないようになっている自動扉なのだろう。
ひとつ奥の病室の扉に視線を向ける。ここからは斜めになってしまっていてよくわからないけれど、辛うじて『小岩井』と書いてある事だけはわかった。
千恵理がすぅと、ひとつ息を吸った。
「……一応防音にはなってるけど、大きな音は立てないようにね」
病室で静かにするのは当たり前だと思うけれど、恐らくそういう事ではないのだろう。
その千恵理の雰囲気に呑まれるように、黙って頷いて見せた。
「じゃ、行きます」
思い切るようにそう告げて、千恵理はカードをリーダーに翳した。
自動扉が音もなく開く。
その中は、薄暗い部屋だった。
中の光源は薄ぼんやりした明かりだけで、到底病室の広さではない。人が三人も入れば椅子を置く場所もないだろう。
成程、廊下が暗かったのは、この部屋に入る明かりを少しでも抑える為なのだろう。何故なのか、まではわからないけれど。
千恵理の後に部屋に入る。その背後で扉が自動で閉まり、廊下から入り込んでいた光を遮断した。
部屋に入ってようやく気が付いたけれど、部屋の奥、病室があるだろう側に窓が付いていた。今はスライド式の板で覆われている。
千恵理はその板を僅かにずらし、片目で覗き込んで、その向こうの様子を確かめた。
それからこちらに向き直って頷いた後、その窓をゆっくりと開けた。
ガラス越しに向こうの部屋の様子が見える。やはり隣の部屋は病室だったらしい。
大きなベッドが置かれ、そこに病院着姿の女性が横になっている。その腕にはおくるみに包まれた赤子が抱かれ、その母子を覗き込むようにして、父親らしい男性が立っていた。その奥にあるベッドは、父親が付き添いで寝泊まりする為の物なのだろう。
見る限り、普通に病院で出産をした親子の姿だった。父親が泊まり込みで世話をするというのは、余程愛されているのだろうとは思うけれど。
それが、この物々しい病棟の一室でさえなければ。
いや、よくよく見て見れば、それだけでは無かった。
母親の抱く姿が自然過ぎて、それを見詰める父親の視線が優し過ぎてすぐには気付かなかったけれど。
そのおくるみに包まれた赤ん坊は、女の子の姿をしたぬいぐるみだった。
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プロフィール
- 名前
- 未田 尚(まだ なお)
- 通称
- にゃー
- お仕事募集ちう。
- 文章を書く関係ならなんでも。
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