碧ちゃんの話
7
そう言うけれど、千恵理の気持ちは少し違うのだと思う。
桜子さんは、千恵理は結婚しないし子供も作らないと言っていると言っていた。それを、仕方ないとも。
多分、千恵理は自分の子に自分と同じ思いをさせたくないのだ。
千恵理が母親から受け継いだ血液型は、千恵理の子にも受け継がれる可能性がある。運良く受け継がれなかったとしても、自分が母親のようにならないという保証はない。
自分が母親を見る時の気持ちを自分の子には味合わせたくはない。だから子供は作らない。
だから、年の離れた妹達を娘のように可愛がる。
家出をしてまで家を継がないのも、それが全く無関係ではないだろう。
勿論、何があるかわからなくてもプロレスラーになりたい……むしろ何があるかわからないからこそ、後悔しない道を選ぶ、というのが一番の理由なのだろうけれど、自分は子供を作らない……つまり後継者がいないから家を継いだとしても結局は碧ちゃんに譲る事になる。それならば自分を挟まない方が、と考えたのだろう。
それはとても、他人の事ばかり考えている千恵理らしい考えだった。
「それにプロレスラーだからって輸血が必要な怪我をすることはそうそうないし、やるだけやったのなら死んじゃっても満足できるのに、何も無く生きてられたら丸儲けだもん。やらない理由ないよね」
そういう顔は強がっている様子はなく、本気でそう思っているようだった。
「そうかな……うん、そうかもしれない」
そう言える千恵理が羨ましかった。
命をかけてまで、死んでも本望だと言えるまで情熱を向けられるものなど自分にはない。それ以前に、そんなに大切な物と引き換えにしてもいいと思う程、命を大切な物だと感じられていない。
命をかけられる程に真剣に生きている。それはとても眩しかった。
「何かあった時の為に定期的に自分の血を保存して貰ってるし。限度はあるけど、余程の事がない限り大丈夫だよ。……まぁ、お母さんはその余程のことがあったから、こうなんだけど」
何事にも絶対はない。けれど、それは逆に言えば千恵理のような事情がなかったとしても、何か起こる時は起こるということだ。神経質になり過ぎても仕方ない……と本人に言われてしまえば、他人に何が言えるだろう。
「……そうか」
だから、良いとも悪いとも言わなかった。言えなかった。
そんな深刻な話をしているのに、なのにその話をしている相手からはいい加減な返事しか返ってこないのに、千恵理は何故か嬉しそうだった。
「だから、私はいいの。わかってるし、納得もしてる。でもあの子たちにとってはどうなんだろうって、どうしても考えちゃう」
窓の向こうでは赤ちゃんが……千恵理がむずかり出したのだろう。母親が慌てた様子でその体を胸に押し当てるようにして掻き抱いた。
「緑は結構分かりやすいよ。あの子、相手の気持ちに敏感だから、お母さんの中に自分がいないってわかっちゃうんだろうね。ここには近寄ろうとしないから。だから、昨日ここで会った時はちょっと嬉しかった。お母さんに会いに来たんじゃないってわかってても」
近寄ろうとしない、から理由があれば病院にまでなら来る、に距離が近くなったと感じられることが嬉しいのだろう。
実際に距離が近くなったわけではないし、それがゼロになる事がないにしても、障壁がほんの僅かにでも低くなったのだと感じる事が出来たことが。
「でも、碧はよくわからない。ここには時々来るけど、いつものあの顔でしばらく眺めて、何も言わずに帰っちゃうだけ」
桜子さんは、千恵理は結婚しないし子供も作らないと言っていると言っていた。それを、仕方ないとも。
多分、千恵理は自分の子に自分と同じ思いをさせたくないのだ。
千恵理が母親から受け継いだ血液型は、千恵理の子にも受け継がれる可能性がある。運良く受け継がれなかったとしても、自分が母親のようにならないという保証はない。
自分が母親を見る時の気持ちを自分の子には味合わせたくはない。だから子供は作らない。
だから、年の離れた妹達を娘のように可愛がる。
家出をしてまで家を継がないのも、それが全く無関係ではないだろう。
勿論、何があるかわからなくてもプロレスラーになりたい……むしろ何があるかわからないからこそ、後悔しない道を選ぶ、というのが一番の理由なのだろうけれど、自分は子供を作らない……つまり後継者がいないから家を継いだとしても結局は碧ちゃんに譲る事になる。それならば自分を挟まない方が、と考えたのだろう。
それはとても、他人の事ばかり考えている千恵理らしい考えだった。
「それにプロレスラーだからって輸血が必要な怪我をすることはそうそうないし、やるだけやったのなら死んじゃっても満足できるのに、何も無く生きてられたら丸儲けだもん。やらない理由ないよね」
そういう顔は強がっている様子はなく、本気でそう思っているようだった。
「そうかな……うん、そうかもしれない」
そう言える千恵理が羨ましかった。
命をかけてまで、死んでも本望だと言えるまで情熱を向けられるものなど自分にはない。それ以前に、そんなに大切な物と引き換えにしてもいいと思う程、命を大切な物だと感じられていない。
命をかけられる程に真剣に生きている。それはとても眩しかった。
「何かあった時の為に定期的に自分の血を保存して貰ってるし。限度はあるけど、余程の事がない限り大丈夫だよ。……まぁ、お母さんはその余程のことがあったから、こうなんだけど」
何事にも絶対はない。けれど、それは逆に言えば千恵理のような事情がなかったとしても、何か起こる時は起こるということだ。神経質になり過ぎても仕方ない……と本人に言われてしまえば、他人に何が言えるだろう。
「……そうか」
だから、良いとも悪いとも言わなかった。言えなかった。
そんな深刻な話をしているのに、なのにその話をしている相手からはいい加減な返事しか返ってこないのに、千恵理は何故か嬉しそうだった。
「だから、私はいいの。わかってるし、納得もしてる。でもあの子たちにとってはどうなんだろうって、どうしても考えちゃう」
窓の向こうでは赤ちゃんが……千恵理がむずかり出したのだろう。母親が慌てた様子でその体を胸に押し当てるようにして掻き抱いた。
「緑は結構分かりやすいよ。あの子、相手の気持ちに敏感だから、お母さんの中に自分がいないってわかっちゃうんだろうね。ここには近寄ろうとしないから。だから、昨日ここで会った時はちょっと嬉しかった。お母さんに会いに来たんじゃないってわかってても」
近寄ろうとしない、から理由があれば病院にまでなら来る、に距離が近くなったと感じられることが嬉しいのだろう。
実際に距離が近くなったわけではないし、それがゼロになる事がないにしても、障壁がほんの僅かにでも低くなったのだと感じる事が出来たことが。
「でも、碧はよくわからない。ここには時々来るけど、いつものあの顔でしばらく眺めて、何も言わずに帰っちゃうだけ」
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プロフィール
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- 未田 尚(まだ なお)
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