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赤羽道夫ショートショート集


金庫

コバルト2004年2月号「ベスト・ショートショート」佳作。小説現代でボツったのを、規定枚数に合わせて短くして応募しました。

 僕は部屋の押入れの前にすわりこみ、じっと金庫を見つめていた。
 それほど大きなものではない。両腕で抱えられるぐらい。もっとも持ち上げるには、一人ではちょっと辛い。
 引っ越しを前に、押入れを整理していて発見したものだった。そんなものがあったとは、この金庫と同様ついぞ記憶の彼方にしまいこまれていたのだが、今思い出した。テレビショッピングを見て衝動買いしてしまったのだ。
 そういえば、ここにいくらかのお金を入れておいたのではなかったろうか。かすかな記憶で甚だ怪しいのだが、せっかく買った金庫に何も入れていないというはずはないだろうし、へそくりか何かが入っていたら、棚からぼた餅だ。だめでもともと。
 と思って扉を引いてみたが微動だにしない。
 扉の真ん中やや上のほうに、カウンターのように数字が四桁ならんでいた。指で数字を合わせるようになっている。どうやらそのナンバーが合っていないらしい。
 さて、どうするか。数字はまったく思い出せなかった。たぶん、ついていた説明書に書かれているはずだ。
 その説明書が、金庫の側面にセロハンテープでとめられていた。ラッキー。
 ところが、よく読むと、それは自分で番号を設定できるとあった。
 そうだったか……。わざわざテレビショッピングで買ったぐらいだから、なんか特徴があるだろうとは思っていたけど。
 僕は考えた。おそらく自分に関係のある何かの数字だろう。
 そう思って、まずは誕生日から入れてみた。
 開かない。
 電話番号。
 開かない。
 住所の番地。
 開かない。
 生まれた年、学校の卒業年、親の誕生日、隣の家の電話番号、原付のナンバー、0から9のぞろ目。
 いずれもだめ。ということは、適当な数字で設定してしまったのだろうか。
 自分でやったというのに、情けない話である。
 今はあきらめて、思いついたときにしよう。
 そう思って、それから数日間、何かの数字が思い浮かぶたびに挑戦してみたが、まったく開かなかった。
 一ヶ月がすぎた。とうとう引っ越しの日である。
 重い金庫を押入れから引きずり出して、気がついた。裏面に、小さなシールが貼ってあった。手書きで、四桁の数字が記されてある。
 さては――。
 その数字に合わせてみた。心臓がどきどきし、手が震えていた。
 扉に手をかけ、ゆっくりと引いてみた。
 扉は、軽く開いていった。
「やったぞー!」
 思わず叫んでいた。玉手箱の蓋がやっと開いたのである。何日も僕を悩ませていた問題がついに解決したのだ。
 小躍りすると、さっそく金庫のなかを調べた。
 が、がらんとした内部には、たった一枚のキャッシュカード以外は硬貨一枚入ってなかった。
 キャッシュカード……。
 僕はそれを取り上げ、じろじろと見ながら思った。この口座にはいくら入っているのだろう。そして、この暗証番号は……。

《終》

プロフィール

ペンネーム
宮本摩月&赤羽道夫
ハンドルネーム
宮本摩月→ミヤ   赤羽道夫→赤羽
自己紹介
ミヤ→ショートショート、お笑い、ボクシングなどのファンです。


赤羽→
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