赤羽道夫ショートショート集
幸運のホームページ
コバルト2005年8月号「ベスト・ショートショート」佳作。ずっとお蔵入りしていたのを送ったら、採用されました。
「って、知ってるか?」
と友人は言った。
「なんだい、それ」
とおれは訊き返した。久しぶりに会った昔の友人の話。きっとおまえもハマるぜ、と言うが、実はあまり興味がなかった。
で、なんだって? 幸運のホームページ?
「なんか怪しい宗教かなんかじゃないのかい?」
「これはおまえだから教えてあげるんだが、そういうのがあってな。アクセスしているだけで、幸運が舞いこむんだ」
「そんなばかな」
「疑うのはわかるが、ま、おれの話を聞けよ。そのうち興味がわいてくるだろうよ」
たしかに彼はいい気分でいるようだ。ギャンブルは率がよくなったし、ゴルフのハンディもいっきに減り、会社の女子社員ともうまくいくようになったそうな。車に乗っても渋滞に巻き込まれず、欲しかったものは容易に手に入る、食事にいってもまずい店にはあたらなくなった……などなど。数え上げたらきりがない。
にわかには信じられなかった。一生に一度の幸運期で、『幸運のホームページ』のおかげとは思えない。おれがそう言うと、そうかもな、と彼は笑ったが、余裕の笑みだった。
一応URLを教えとくよとメモを渡してくれたが、パソコンさえ持っていなかったから、すぐにというわけにはいかなかった。携帯電話からはアクセスできないページだった。
その後、その友人がどうなったのか、何週間かたって電話をしてみた。だがいくら呼び出しても電話に出なかった。なにかの事件に巻き込まれたのだろうか。
思い当たるフシはなかったが、唯一気になる手がかりがあった。例の『幸運のホームページ』というやつだ。彼は、あるいは一生分の幸運を使い果たしてしまったのかもしれない。
おれはインターネット・カフェなる店に入った。なにかわかるかも、と一度アクセスしてみることにしたのだ。
区切られたブースの一つにすわり、もらったメモをとりだすとURLを入力した。
『幸運のホームページ』というタイトルが画面に現われた。意外とシンプルなデザインだ。もっと派手かと想像していたが。『ようこそ』と書いてある。『このホームページをご覧になるだけで、あなたに幸運が訪れるでしょう』とあり、背景がグリーンから白、青と変わっていく。
それだけだった。なんともシンプルな。おれはがっかりした。もっと素晴らしいことが待っているのではないかと期待していたのに。
友人の失踪の手がかりにはならなかった。いったい彼はどうしてしまったのだろう。何の連絡もないまま時間だけがすぎていった。
ところが今度はおれに幸運が舞い込むようになった。買った馬券が万馬券だったり、大きな仕事が成功したり、これまで運が良かったと思ったことのないおれには信じられなかった。まさか幸運のホームページのおかげか、と思った。おれはもう一度アクセスしてみた。すると、こんどは違うメッセージが書かれてあった。
『幸運はやってきましたか。ときどきアクセスしてください。あなたは誰よりも幸運な人生を送れるでしょう』
はたして、その後も次々と幸運がやって来た。おれは浮かれ、恐いものはなにもなくなった。何度もインターネットに接続し、もはや彼のことなど忘れてしまっていた。
おれはこのことを誰にも言わなかった。誰かに言うと幸運が逃げていくような気がしていたからだった。
それで幸運はどんどん続いた。だが、それに慣れてしまうと、なんだかつまらなくなってきた。何もかもが上手くいく人生。おかしなもので、そうなると、なんとなく張り合いのないような気がしてくる。
そんなある日、いつものようにアクセスすると、目新しいメッセージがあった。
『あなたは最近退屈していませんか? どうです。ここらでこの世から別の次元へ行ってみませんか』
ははあ、なるほど。やつの失踪の訳はこれか。今の生活に飽きてしまい、この世ではないどこかへ楽しいことを求めに行ったのだろう。それがどこなのかわからなかったが、この世よりはマシだろう。
おれはうなずいた。
おれの部屋で首吊り死体が発見されたのは、それから一週間後のことだった。
《終》
と友人は言った。
「なんだい、それ」
とおれは訊き返した。久しぶりに会った昔の友人の話。きっとおまえもハマるぜ、と言うが、実はあまり興味がなかった。
で、なんだって? 幸運のホームページ?
「なんか怪しい宗教かなんかじゃないのかい?」
「これはおまえだから教えてあげるんだが、そういうのがあってな。アクセスしているだけで、幸運が舞いこむんだ」
「そんなばかな」
「疑うのはわかるが、ま、おれの話を聞けよ。そのうち興味がわいてくるだろうよ」
たしかに彼はいい気分でいるようだ。ギャンブルは率がよくなったし、ゴルフのハンディもいっきに減り、会社の女子社員ともうまくいくようになったそうな。車に乗っても渋滞に巻き込まれず、欲しかったものは容易に手に入る、食事にいってもまずい店にはあたらなくなった……などなど。数え上げたらきりがない。
にわかには信じられなかった。一生に一度の幸運期で、『幸運のホームページ』のおかげとは思えない。おれがそう言うと、そうかもな、と彼は笑ったが、余裕の笑みだった。
一応URLを教えとくよとメモを渡してくれたが、パソコンさえ持っていなかったから、すぐにというわけにはいかなかった。携帯電話からはアクセスできないページだった。
その後、その友人がどうなったのか、何週間かたって電話をしてみた。だがいくら呼び出しても電話に出なかった。なにかの事件に巻き込まれたのだろうか。
思い当たるフシはなかったが、唯一気になる手がかりがあった。例の『幸運のホームページ』というやつだ。彼は、あるいは一生分の幸運を使い果たしてしまったのかもしれない。
おれはインターネット・カフェなる店に入った。なにかわかるかも、と一度アクセスしてみることにしたのだ。
区切られたブースの一つにすわり、もらったメモをとりだすとURLを入力した。
『幸運のホームページ』というタイトルが画面に現われた。意外とシンプルなデザインだ。もっと派手かと想像していたが。『ようこそ』と書いてある。『このホームページをご覧になるだけで、あなたに幸運が訪れるでしょう』とあり、背景がグリーンから白、青と変わっていく。
それだけだった。なんともシンプルな。おれはがっかりした。もっと素晴らしいことが待っているのではないかと期待していたのに。
友人の失踪の手がかりにはならなかった。いったい彼はどうしてしまったのだろう。何の連絡もないまま時間だけがすぎていった。
ところが今度はおれに幸運が舞い込むようになった。買った馬券が万馬券だったり、大きな仕事が成功したり、これまで運が良かったと思ったことのないおれには信じられなかった。まさか幸運のホームページのおかげか、と思った。おれはもう一度アクセスしてみた。すると、こんどは違うメッセージが書かれてあった。
『幸運はやってきましたか。ときどきアクセスしてください。あなたは誰よりも幸運な人生を送れるでしょう』
はたして、その後も次々と幸運がやって来た。おれは浮かれ、恐いものはなにもなくなった。何度もインターネットに接続し、もはや彼のことなど忘れてしまっていた。
おれはこのことを誰にも言わなかった。誰かに言うと幸運が逃げていくような気がしていたからだった。
それで幸運はどんどん続いた。だが、それに慣れてしまうと、なんだかつまらなくなってきた。何もかもが上手くいく人生。おかしなもので、そうなると、なんとなく張り合いのないような気がしてくる。
そんなある日、いつものようにアクセスすると、目新しいメッセージがあった。
『あなたは最近退屈していませんか? どうです。ここらでこの世から別の次元へ行ってみませんか』
ははあ、なるほど。やつの失踪の訳はこれか。今の生活に飽きてしまい、この世ではないどこかへ楽しいことを求めに行ったのだろう。それがどこなのかわからなかったが、この世よりはマシだろう。
おれはうなずいた。
おれの部屋で首吊り死体が発見されたのは、それから一週間後のことだった。
《終》
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- 宮本摩月→ミヤ 赤羽道夫→赤羽
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- ミヤ→ショートショート、お笑い、ボクシングなどのファンです。
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