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赤羽道夫ショートショート集


天竜くん

コバルト2006年2月号「ベスト・ショートショート」佳作。この形になるまで紆余曲折。何度も書き直しました。

 夜が明けたばかりで、水平に差し込む朝日がまぶしい時間。空は気持ちよく晴れ、澄んだ空気が冷たい。
 河川敷きに、ひとつの人影があった。人影は紳士で、動きやすそうなカジュアルな服装であった。
 そしてその傍らには一頭の犬がいた。賢そうな顔をした柴犬で、名は天竜といった。勇ましい名のとおり、雄で、しかもちゃんとした血統書をもつ立派な犬である。二歳になったばかりで、若い背筋はシャキッとして凛々しかった。
 ちょうど朝の散歩の最中なのであった。朝と夕方が日課で、雨が降っても欠かさなかった。ちゃんとレインコートを着るので、雨なんか平気なのである。
 河川敷きはちょっとした公園に造成されており、体を動かすには十分に広かった。だからロープなしで走り回りたいところだが、放し飼い禁止条例のため、それはかなわなかった。それは天竜くんもわかっているようで、紳士にせがむようなことはしなかった。利口な犬なのである。
 きれいに刈りこまれた植え込みの緑が、陽を受けて瑞々しく映え、ゆったりと流れる川面がきらきらと鋭く輝いていた。
 しばらく河川敷きを散策して満足したのか、天竜くんは紳士とともに堤防をあがっていった。堤防上の歩道を適当にマーキングしながら進むと、架けられてから数十年もたつアーチ型の橋を渡り、家へのコースへ乗る。
 四、五分ほどで自宅に着いた。
 狭いながらも庭のある、立派な一戸建てである。
 さぁ入ろうとしたときだった。紳士の動きが突然止まった。踏み出しそうとした足が地面につかず、空中で静止している。瞬きさえせず、そのままの体勢で微動だにしない。
 天竜くんは、それを見るなり家の中へ駆け込んだ。
 しばらくして出てきたときには、口に何かをくわえていた。せっけん箱ほどの大きさで、金属部分が両側に光っていた。
 天竜くんは紳士の背後に回り込むと、腰に飛びつき、シャツを前足で器用にめくった。するとそこに矩形の窪みが現れ、黒い物体が埋め込まれていた。それはまさしく天竜くんがくわえてきたのと同じものだった。それを前足と口で入れ替えた。
 すると紳士は何事もなかったかのように再び歩き始めた。天竜くんを見おろし、
「すまんすまん。バッテリーの調子が悪かったようだ。さぁ、朝ごはんにしよう」
 天竜くんは一声「ワン」と吠え、紳士とともに家に入っていった。
 天竜くんはたいへん利口な犬であった。散歩ロボットの面倒も見られるほど。

プロフィール

ペンネーム
宮本摩月&赤羽道夫
ハンドルネーム
宮本摩月→ミヤ   赤羽道夫→赤羽
自己紹介
ミヤ→ショートショート、お笑い、ボクシングなどのファンです。


赤羽→
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