四角test1-1
四角関係 ~ 新たなる道 ~
第一話 約束 ―プロローグ―
団地の中にひっそりとたたずむ小さな公園。
ブランコと砂場と滑り台しかないこの公園には、いつも同じ三人の子供達
『斉藤 純平』『神山 秀大』『南 桜』がいた。
同じ団地内に住む子供達。
近くにはたくさんの子供達が遊んでいる広い公園もあるが、
三人だけはいつもこの小さな公園で遊んでいる。
「ねぇ秀くん、桜ちゃん」
「どうしたのじゅんぺー君?」
「いきなりどうしたんだよ!」
「みんなで約束しようよ。絶対に俺達の間では嘘は言わないって!」
「そんなこと今更約束しなくてもいいじゃん! 僕達友達だもん!」
「そうよそうよ! 私達友達だもんね!」
「それじゃ約束だよ! 絶対に約束だよ!」
子供達が誓った、たった一つだけの約束。
― 嘘は言わない ―
この約束は中学生活の終わりを目前と控えたその日まで守られてきた。
三人が小学校に入学すると共に、小さな公園は取り壊されてしまった。
数ヶ月も経たないうちに、公園は駐車場へと変わっていた。
行き場を失った三人は学校で同じクラブに入ることにした。
最初は何でも良かったのだが、男子と女子が共に出来るクラブと言うのは限られていた。
三人は話し合った結果、小説部に入ることを決めた。
小説部の活動は小説を書くだけ。かなり地味なクラブだ。
だが最初は一緒にいることが目的だったはずが、段々と三人は小説を書く面白さにのめりこんでいき、
いつしか三人は真剣に小説を書いていた。
六年間の小学校生活はあっという間に過ぎてしまった。
三人が通う一五園学園は小学校、中学校、高校とそのまま進学できるので三人はそのまま一五園中学へと通うことになった。
中学には残念ながら小説部というものは存在しなかった。
三人は漫画部の顧問に駆け寄り、漫画部は小説漫画部に変更されることになった。
三人はそのまま小説漫画部に入部することになる。
中学一年の夏、顧問の先生が三人に一枚の紙を渡す。
その紙に書かれていた内容は学生新人小説賞についてだった。
ジャンルは問わず、金賞一人に百万円、銀賞二人に五十万、銅賞十人に十万贈呈と書かれていた。
三人は賞金と言うよりも審査員がプロの小説家と言うこともあり、自分の実力を知りたいがために学生新人賞に向けて執筆活動により専念した。
中学一年の夏は執筆活動でほぼすべてを費やした。
そして十月に指しかかろうとしていた頃、顧問の先生から結果発表を言い渡された。
神山と南が銅賞で十万円、斉藤にはシャープペンが渡された。
斉藤に比べ、神山と南はもともと頭が良く、学年のトップテンに入るほどで小説も書くのが上手だった。
その点、斉藤は学年では真ん中からちょっと下を常にキープする、いわば普通だった。
「秀君も桜もすごいよね。俺やっぱ才能ないのかな……」
斉藤は頭を掻いた。
「そんなことないって。たまたまだよ」
「そうよそうよ。私じゅんぺいの書いた小説好きだもん!」
「そ、そうかな……」
斉藤はその頃から二人と距離があるのではないかと不安を抱き始める。
その日の帰り、三人はいつものように下校していた。
その時、校門に五人の不良がたむろっていた。
「おいおい、俺等を無視するのか、おい!」
不良は三人を囲みこんだ。
「俺等が用があるのはそこの二人なんだよ! お前ら大金持ってるらしいじゃねぇか」
不良のリーダーは南の肩に手を置こうとした。
「何するんだよ!」
斉藤は不良の顔面に拳をえぐりこんだ。
「痛ってぇな! やる気か、おい!」
不良は斉藤を囲みこんだ。
「じゅんぺい! 危ないよ」
南は必死に斉藤を止めようとする。
「こいつらに言葉は通じない! 二人は走って逃げろ!!」
斉藤は二人を押して、遠ざけた。
「正義のヒーロー気取りか? ふ、笑わせるぜ」
「俺をなめてんのか? あとで後悔するぜ」
斉藤は五人に向かって走り出した。
日は完全に落ち、周りの街灯に明かりがつき始めた。
校門の前には五人の不良が倒れこんでいた。
斉藤は地面に置いた鞄を手に取り、家路へと向かった。
「じゅんぺい……」
校門の前には南と神山が待っていた。
「秀君、桜。先に帰れって言ったのに……」
「純平を置いて帰れないよ。しかも怪我してるじゃないか!」
斉藤の顔は痣だらけでぼろぼろになっていた。
「こんなの怪我したって言うほどのものじゃない。気にしなくていいよ」
「でも、じゅんぺい……」
斉藤は何も言わずそのまま家に向かう。
二人は斉藤に着いていくかのように共に帰っていく。
次の日、斉藤が不良をぼこぼこにしたことは校内中、学年を問わず噂が広まっていた。
先生達は直接現場を見ていなかったこともあり、何も言ってこなかった。
その日から不良達は斉藤を見るたびに震え上がり、遠ざかっていった。
中学校生活をいつしか終わりに近づいていた。
三年になると頭の良い順にクラス分けがあり、斉藤だけ別のクラスになった。
二学期も中盤に差し掛かった頃、神山は南を屋上に呼び出した。
「どうしたの秀君。次移動教室だよ?」
「あのさ、桜……俺さ、桂木高校受験してみようと思うんだ。
もし、受験合格出来たらさ、俺の彼女になってほしいんだ……」
桂木高校は県内の男子校で一番入学が困難と言われていて、倍率は二割ほどしかない。
「でも、じゅんぺいが……」
「純平には俺からちゃんと説明する! だから考えといてくれ」
神山はそのまま階段を駆け下りていった。
「あ、秀君。でも私……」
南の声は神山には届いてなかった。
その後、移動教室で南が問いかけても神山は返事は受かってからでまだいいと聞く耳を持たなかった。
そしてその日の帰り道、南は先生に呼ばれて先に帰るように言われたので
神山と斉藤は二人で帰ることになった。
そしてこの日が、三人の運命を変える運命の日になるとは、まだ誰も知らなかった。
そんな斉藤純平の物語が今始まる……
第二話 絶交
俺、斉藤純平はいつも神山と南の三人で下校していたので男同士で帰るのは珍しかった。
「秀君、久しぶりに二人で帰るね」
「そうだね。いつも桜がいるもんね」
「今しか聞けないから聞くけどさ。秀君って桜のことどう思ってる?」
神山はびっくりして立ち止まってしまう。
「な、いきなりストレートに聞いてくるんだな」
「どうなんだよ、俺はさ、桜のことはもう友達としてじゃなくて、女性として好きになったかもしれない。秀君は?」
「お、俺は別に……桜は今でも友達だしさ。そう言うのは別に……」
「そうなんだ。俺秀君みたいに頭良くないしブサイクだしさ。秀君も好きなんだったらかなわないなって思ってたんだ」
「……」
神山は黙り込んでしまう。
「秀君?」
俺が声をかけても神山は立ち止まったまま、返事を返さない。
「どうしたんだよ! もしかして秀君も桜のこと好きなの?」
「いやいやいや、違うんだよ純平……」
神山はうつむいたままそれ以上喋らなかった。
しばらく二人が立ち尽くしていると、用事を終えた南が二人の下へ駆け寄ってくる。
「二人とも待っててくれたのー?」
神山は南が来ると目を見開いて驚いた表情を見せる。
「秀君、言うなって言ったけど、やっぱり付き合うとかはまだ早いよ。だって私達まだ中学生だしさ!
やっぱり私二人とも好きだもん」
神山は桜がそう言った途端、その場に尻餅をついた。
「そう言う事だったのか……桜、先に帰ってくれないか……」
「どうしたの、じゅんぺい?」
「いいから先に帰ってくれ……」
俺は桜を突き飛ばした。
「い、痛っ。わ、わかったわよ!」
南は訳もわからずマンションの方角へと歩いていった。
南が交差点を曲がり、見えなくなったところで、俺は倒れていた神山の胸倉を掴み持ち上げた。
「何で嘘つくんだよ……嘘は言ってはいけない約束だろ?」
神山は苦しそうにもがいている。
「だ、だって……お、お前がいきなり……言うから……」
「そうか……それは悪かったな!」
俺は持ち上げた神山を投げ飛ばし、一発顔面を殴った。
「じゅんぺい!!」
交差点から覗き見をしていた南がこちらに向かって走ってくる。
「帰れって言っただろうが!!」
南は俺の顔を見ただけで、その場に倒れこんでしまった。
「じゅんぺい……」
南は涙ながらに俺の名を呼んだ。
「お前らは俺に嘘ばかり言いやがって……もう絶交だ……勝手に仲良くやってくれ……」
「じゅ、純平……待って……くれ」
起き上がってきた神山に、俺はもう一発殴った。
南は手で目をふさいでいた。
俺はそのまま帰ってしまった。
しばらくして南が神山の下へ駆け寄る。
「秀君どうしたのよ!? じゅんぺいがあそこまで怒るなんて」
「お、俺が悪いんだ……あいつに嘘ついたんだ」
神山は俺と話したことをすべて話した。
「そんな……」
「ごめん桜……俺あいつが嘘が一番嫌いなこと知ってたのに……でも俺、言えなかったんだ……」
「ううん。私もちゃんとあの時言わなかったのが悪かったの。秀君だけのせいじゃないわ……」
「桜……やっぱお前は優しいんだな」
「とりあえず帰りましょ」
南は神山に肩を貸し、家路へと向かった。
家に帰った俺は昔のことを思い出していた。
それはまだ俺が子供だった頃、父が俺の誕生日一週間前に出張で家から出る前に言い残した言葉だった。
「父ちゃん! 絶対誕生日には帰って来てね! 約束だよ!」
「ああ、絶対帰ってくる。約束するよ」
そう言って父は家から出て行ったが、帰りの飛行機が事故に遭い、父は二度と帰ってこなかった。
その日から俺は嘘が大嫌いになった。
今思い返せば仕方がないことで、どうしようもないことだとはわかっている。
だが、トラウマの用に俺の脳裏に焼きついているのだ。
父が残した最初で最後の嘘を……
晩の八時ごろを回った頃、母が仕事から帰ってきた。
「純平! 桜ちゃんが来てるわよ」
俺はすぐに寝たふりをした。
部屋のドアがゆっくりと開く。
「じゅんぺい……」
南が俺に話しかけたが無視する。
「ごめんねじゅんぺい。秀君も悪気があってじゃないから……」
「お前が謝ることじゃないだろ! 出てってくれよ」
俺は我慢できず、南に言った。
「でも、じゅんぺい……こ、これ新しく書いた小説なの。まだちゃんと完成してないけどじゅんぺいに見てほしいから
机の上に置いとくね」
「……」
「じゅんぺい……私、また三人で遊べる日、待ってるから! ずっとずっと、待ってるから!」
南はそういい残し、帰っていった。
俺はベッドから起き、南が残していった小説に目を通した。
「純平、ご飯出来たわよ」
母の声も聞こえないぐらいに、俺は小説に夢中になっていた。
いい名づけの王子と結婚させられそうになる少女を奴隷の少年が奪いに来るという内容だった。
俺はその日、涙が止まらなかった。
第三話 新しい生活
俺はその時、初めて三人になってクラスが別になったことを嬉しく思った。
一五園高校に行く斉藤には、この時期は暇で仕方なかった。
何もしなくても進学できるので受験勉強などもしなくて良かったからだ。
俺は同じクラスメートの山本を誘い、街へ飛び出した。
「でも斉藤が俺なんかを誘うって珍しいよな。いつもの二人はどうしたんだよ」
「あいつらは受験とかで忙しいからさ。お前なら暇だと思ってさ」
「それはちょっと失礼だな。俺だって漫画書くので忙しいのに!」
山本は俺と同じクラブだった。
だが漫画の方が専門で、俺はたまに暇な時に山本の漫画を読むことがある。
意外と山本の漫画のファンだったりする。
「それって忙しいっていうのか? 俺には暇人にしか見えないけどな」
「ほんっとお前って失礼なやつだわ」
山本は本気で怒っているようだ。
その日、山本と俺はゲーセンに行ったりCDを買いに行ったりと十分に遊びつくした。
「んじゃ俺は帰るよ。漫画描かないといけないからな!」
「やっぱり漫画かよ。まあ今日は付き合ってくれてありがとな」
「いいよ別に。たまにだったらまた誘ってくれよ」
「ああ。じゃあな」
二人はその場で別れた。
帰り道、一五園中学の制服を着た女の子が同じ中学の制服を着た男共に囲まれていた。
「東ちゃんいいだろ? ちょっとお金貸してくれよ。俺達困ってるんだよ」
「え、ええ。私でも……あの……」
女の子はあたふたしていた。
よく見ると、俺が以前殴りつけた不良共だった。
あの日のことを思い出した俺は無性にイライラしてきたので、不良共のところへと向かった。
「おいお前ら! また悪さしてるのか!」
「あーん。誰だ……う、うわぁ~! 鬼の斉藤だあー」
俺を見た不良達は慌てるように去っていった。
俺はイライラ感がよりたまった感じがした。
「あ、あの……助けてもらってありがとうございます! あの……お名前は?」
「俺は斉藤だけど」
女の子は驚いた表情を見せる。
「もしかして、あの不良を一人で倒してしまった別名鬼の斉藤さんですか!?」
俺はあまりにもダサいあだ名をつけられていることに今気がついた。
「た、たぶんそうだと思うけど……」
「本当ですか! 同じ学校だけどまさか本人に会えるとは思いませんでした!
あ、あの助けてもらったお礼がしたいです!」
助けるつもりもなかった俺にはお礼なんて必要なかった。
逆に困るぐらいだ。
「別にいいよ。俺、何もしてないし……」
「でも悪いです! あっ、そういえば私急いでたんです! また今度でいいですか?」
「あ、ああ……」
「では失礼します!」
女の子はぺこりと頭を下げて急いで走っていった。
俺はしばらくその場で立ち尽くすしかなかったが、そのまま家に帰った。
家に着いた俺は部屋に入り、いつものように原稿用紙とペンを手に取った。
だが、ふと考え事をしていた。
(いったいなんで俺小説書こうとしているんだろうか……)
思い起こせば小説自体、俺には三人でいられるための一つの糧しかなかったのだろうか。
そんなことを思っていると全くペンが進まなくなってしまい、
いつしか俺は全く小説を書かなくなってしまった。
桜が咲き乱れる頃、俺は真新しい制服に着替える。
今日から一五園高校に通うことになるのだ。
「母さん。行って来るよ!」
俺は新しい人生の始まりかのように家のドアを開けた。
まるですべてから逃げるかのように……
風の噂で聞いた話だが、神山は桂木高校に、南は百西高校に合格したらしい。
実際に本人に聞いたわけでも見たわけでもないので詳しい話はわからなかった。
だが、当然その高校に行ったと俺は思い込んでいた。
学校に着いた俺は、早速校門に大きく張られていたクラス分けの表に目を通した。
一組には名前が無く、二組に目をやった時、俺は目を疑った。
そこにははっきりと神山秀大という名前があったからだ。
俺はそこを何度も何度も見直したが、やっぱり神山秀代の名前がある。
下へと目をやると俺の名前もあった。
まさか同姓同名の人がいるのだろうか。
そこまでありふれた名前でもないので、俺は真実を確かめるべく教室へと向かうことにした。
下駄箱に靴を入れ、階段を上ろうとした時、見覚えのある女の子がいた。
以前不良に絡まれていた女の子だった。
「あっ! 鬼の斉藤君。助けて!」
俺は女の子が喧嘩を売ってるとしか思えなかった。
「ど、どうしたんだよ」
「二組の教室がわからないの……」
この一五園学園は、小学中学高校はほぼ同じ作りで構成されている。
「あのな。校舎そこまで変わってないんだし……っていうか一年の教室の場所一緒じゃねぇかよ」
「えっ! そうだったの? 気づきませんでした」
「……」
当然、女の子は俺の後を着いてくるように歩いている。
俺が二組の前に止まると、女の子は驚いたように俺を突き飛ばした。
「ええっ! 一緒の二組なんですか!! 私知ってる人いなくって不安だったんですよ!」
俺は突き飛ばされた衝撃で、思いっきり教室のドアで頭をぶつけてしまった。
「お、お前なぁ……」
「私、東 優って言うんです。よろしくお願いします!」
俺は東という女の子には何を言っても無駄な気がしたので、何を言わなかった。
教室に入ると机の上には名前の書いたシールが張ってあり、黒板に名前の席に座り待てと言う伝言が書いてあった。
俺は一通り教室を見渡したが神山の姿は無かった。
一応神山の席を先に探してみた。
神山と言う人の席は一番後ろの窓側の席だった。
「鬼の斉藤君! 名前こっちにあったよ!」
今から最低でも一年間過ごさないといけないクラスメイトの前で、東は勝手につけられたダサい名前を大声で叫んだ。
俺は急いで東の元に駆け寄った。
「お前な! そのダサいあだ名で呼ぶのはやめろよな!!」
「えっ? それじゃ斉藤君って呼ぶようにします。
あっ! 斉藤君の席、私の隣ですね!!」
俺は何か重い物が肩に圧し掛かった気がした。
チャイムが鳴り、ひ弱そうな二組の担任になる高原先生がやって来た。
俺は鬼教師代表みたいな先生が来ると思っていたので一応安心した。
中学三年の時の担任は寝ているだけでガミガミと怒鳴りつけてくる最低な先生だったから軽いトラウマだったのだ。
先生が出席をとり始める。
だが、神山の席は依然空席になっている。
俺はその席をぼーっと見つめていた。
しばらくして廊下を急いで駆ける音が教室の中でも聞こえてきた。
そして、二組の教室であろうところでその音は止まり、ドアが開いた。
「ごめんなさい。遅れました!」
「神山かな? 初日から遅刻とは……まぁ席に座りなさい」
その人は、俺がよく知る神山秀代だった。
第四話 偶然
神山は俺の方をちらっと見たが、俺は不自然なぐらいに目線をそらした。
神山はゆっくりと俺の席の横を通りながら席に着く。
「それでは話の続きだが……」
先生は神山が席に着くなり、どうでもよい話を長々と続けた。
「斉藤君、あの人学生新人小説賞で銀賞に選ばれた神山さんですよね?」
東が急に俺に話しかけてくる。
まあ席も隣同士なのもあるし、先生の長ったらしい話に退屈でもしたのだろうか。
「あ、ああ。そうだけど?」
あまり神山には触れられたくはなかった。
「すごいよねー。私、小説大好きだから一回ぐらい見てみたいです!」
「お、俺に言わずに直接本人に言ったらいいだろ!?」
「あれ? 斉藤君も小説漫画部じゃなかったのですか?」
同じ作りの学校の教室の場所は知らないくせに、いらないところだけは物覚えがいいらしい。
「いろいろあってな。神山とは今気まずい関係なんだよ……」
東にすべて話す必要性もないので、詳しくは言わなかった。
「え!? そんなの駄目ですよ!」
「駄目って何がだよ。第一お前には関係ないだろ?」
「わかりました。この前のお返しとして二人の仲を良くしてあげます!」
「いいって……お前にはわからないんだよ……」
「わからないですけど。私、勝手にやりますからね!」
「……」
何を言っても聞きそうに無いので言い返す言葉が見つからなかった。
「え、ではクラブ申込書を今から配ります。
用紙にも書かれているように提出期限はありません。
好きな時に担任の私まで届けてください」
先生が一枚の用紙を生徒全員に配り始めた。
「斉藤君! この文芸部に入りましょ! ここだったら漫画でも小説でも出来ますから!!」
「ちょ、ちょっと待て。俺はもう小説は書かないんだって……」
「いいんです! 紙預かりますよ!」
東は俺のクラブ申込書を奪い取った。
「お、おい!」
「私が紙出しときますから! 今日絶対文芸部に来てくださいね!」
「も、もう勝手にしろ……」
俺は東のせいで文芸部に入部することになった。
だが、まだ神山が来ると言う保証も無い。
俺は心の中で、神山が来ない事を祈りながら放課後を迎えた。
お昼前には先生の長ったらしい話も終わり、俺は東に引っ張られながら文芸部へと向かった。
東はゆっくりと文芸部のドアを開けた。
「失礼します!」
部屋の中は決して活気のあるという感じではなかったが、数人の先輩達であろう人たちが
それぞれの机に座り、黙々と何かをノートに書いていた。
「君達は新入生の子達かな?」
俺達に優しく声をかけてくれたのは、優しそうな一人の男性だった。
「はい! 今日からこのクラブでお世話になろうと思ってます東と斉藤君です!」
男性に東は小さくお辞儀をした。
「僕は部長の岡崎 信也です。これからもよろしく」
俺は周りを見渡してみたが、神山の姿は見当たらなかった。
少しほっとした気持ちになった。
岡崎さんに案内され、俺達は隣通しの席に座る。
俺の机だけ、変な怪獣の絵が彫られていた。
「神山さん、遅いですね」
「遅いってたぶんクラブに入らなかったんじゃないかな?」
「違うんです。来る前に神山さんに文化部に入ることを進めといたんです。了解してくれたんですけどねぇ」
「え……」
東がそう言った途端、部屋のドアが開かれた。
そこに、神山が立っていた。
「秀君……」
「純平……」
二人だけ、まるであの別れた日に戻ったかのように思えた。
「これで大解決です!!」
東は大喜びだったが、実際全く関係が良くなったわけではなかった。
逆に気まずくなってしまって、逆効果になってしまった。
「私ちょっと席外すんで二人で待っててね!」
そう言って東は外に飛び出していった。
「「……」」
東の席が真ん中にあり、それをはさむように二人が座っている。
当然話すことさえも出来ず、ただ時間だけが流れていく。
「なぁ、純平」
先に声を出したのは神山の方だった。
「……」
俺はただ黙って聞いていた。
「許してくれなんて言わない。いや、言えないかな。でもさ、俺も桜ももう一度あの頃に戻りたいんだ。
すごくわがままな事を言ってるのはわかってる。でも、もし純平に許してもらえるなら……
今日、あの頃の思い出の場所で待ってる……」
そう言い残して神山は立ち上がった。
俺は後ろに去っていく神山に目さえ合わせることが出来なかった。
だが、俺も同じ気持ちだって言うことなんて到底無理な事だった。
入れ違いのように東が戻ってきた。
「斉藤君! 神山さん帰っちゃったよ」
声を掛けてきた東を無視するかのように俺は立ち上がった。
「ちょ、ちょっと斉藤君ってば!」
俺は東を置いて文化部の教室を出た。
「斉藤君、待ってってば!!」
東はすぐに走って俺を追いかけてきた。
「ごめん。今日は一人にしてくれないか……」
「斉藤君……」
東は泣きそうな顔をしながらその場で立ちすくんだ。
俺はそんな東を見捨てるように先に家に帰っていく……
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