まい★まり ― 二人の絆 ― 第一話
高校の卒業式。特に未練もない。
ただ、強制的に登校させられつまらない先生の話を何時間も聞かされ
頭をフル回転させ、好きでもないことを必死にやらされる。
何が嬉しくてこんなことをしなければならないのか。
どうしてまた場所を変えてより難しい勉強をしなければならないのか。
いずれ分かると言われても今生きている俺にはどう考えても理解しがたいものである。
俺、三神 智一(みかみ ともかず)は親に言われるまま高校に進学し、
春からは上京して大学に通う。
やっと終わった学習生活をまた四年過ごさなければならない。
感動的なシーンのはずが俺だけ一人躁鬱状態である。
「三神君、大学決まってるからいいよね。私まだ決まってないから不安だよ……」
俺に話しかけてきたのは小学校から一緒の学校に通う幼馴染、如月 麻里(きさらぎ まり)だ。
「私もマジやばいんだけど……二次試験落ちたら浪人だって……」
麻里には双子の姉が居て、髪が長い姉の麻衣(まい)。
顔だけ見ても長年一緒に居る俺でも見分けがつかない。
だが性格面は正反対。
社交的な麻衣と消極的な麻里。
同じ生活をしていてどうしてこんなに変わるものかといつも不思議に思う。
「まぁ三週間後には向こうに移ってバイト探しとかいろいろ大変だし良いもんじゃねぇよ」
「でもさでもさ、それって秀才だから言えることだよねー。馬鹿にはそんな台詞死んでも言えないよ」
「は、はぁ……」
麻衣はやたらと勉強が出来る俺に突っかかってくる。
「私達もいっぱいお勉強してるのに全然分からないもの……」
「ま、麻里の方がまだ可能性がありそうだからな」
麻衣は何かを瞬時に察知したようで右足を大きく振りかぶり、俺の尻目掛けて振り払った。
「何よ何よ!! いっつも麻里のことばっかひいきしてさ!! こうなったら私も東京の大学に変更してあんたん家に毎日居座ってやるわ!!」
「ちょ、ちょっと待てよ。お前地元志望だったろ!? 今更願書書いて勉強したって遅いぜ?」
麻衣の怒りのボルテージはついに最高値まで達した。
そしてその怒りは右の拳に凝縮され、まるで死闘をしているかのようにただならぬオーラを身にまとい、
何のためらいも無く、その拳は俺の腹部を貫いた。
「うぎぇぇあぁ!!!」
「絶対見返してやる……絶対ね!! 麻里も道連れよ!!」
「わ、私はいいよぉ……だって今の大学でもいっぱいいっぱいだしぃ……」
「あんたで無理だったら私に未来は無いのよ!! 考えてても仕方がないわ、早速職員室に殴りこみに行くわよ!!」
「ま、待ってよぉー」
麻衣は麻里の腕をがっちり掴んで連れ去った。
「おいおい……大丈夫かよあいつら……」
卒業式から三週間が経った。
俺は荷物をまとめ両親に別れを告げ駅に向かう。
見慣れた景色もこれでしばらく見れないと思うと
何の未練も無いが寂しく思う。
絶対に見送りに行くと言ってた麻衣の姿も見当たらない。
電話しても忙しいと切られる始末で当然といえば当然かもしれない。
見送ってもらいたいと言う訳ではないが来ると言ってたのに来ないと変に寂しく感じてしまう。
だが向こうに着いたらやらなければならないことがたくさんある。
「そう言えば引越し先が急に変わったんだっけ。母さんなんで変えたんだろ?」
昨日突然引越し先を変更すると言い出した母。
理由を聞いても内緒って約束とか意味不明なことしか言わなかった。
まぁ今なら家賃半額で済むから得とか言ってたし気にしないでおこう。
新幹線で約二時間半の旅路は俺と睡魔の熱い攻防戦の幕開けだった。
俺は最後まで防衛に徹し、眠気覚ましのガムや栄養ドリンクの援護を受けても
やはり睡魔と言う悪魔には勝てなかった。
そこまで我慢する必要は無かったのだが自分で寝ずに行こうと決めたことを
覆すのが気持ち的に嫌だっただけなのだ。
ふと目覚めると東京と言うアナウンス。
「や、やべぇ!」
俺は荷物を持って急いで飛び降りた。
「もう遅いってー!」
「え!?」
初めての土地で何故か聞きなれた声が聞こえた。
「お、お前ら!! 何でこんなとこに」
駅のホームに立っていたのは麻衣と麻里だった。
「私達も今日からあんたと一緒に住むことになったから。変な気起こさないでよね……」
「ちょ、ちょっと待て。状況がわからん。大体お前らなんでここにいるんだ?」
俺は錯乱状態に陥っている。
「何でって……あんたと同じ学校に通うことになって家賃浮かす為に同じアパートに変えて貰ったのよ。ねぇ麻里?」
麻衣の横に申し訳なさそうに佇んで居る麻里。
「私達お金が余り無かったので三神さんのご両親に無理を言って変えてもらったんです。
迷惑でしたでしょうか……」
麻里に言われると断ろうにも断れない。
第一上京代は親に肩代わりしてもらっている俺としても文句の言い様が無い。
「め、迷惑と言うか……やっぱさ、俺男だしなぁ……」
その時、麻衣が何かを察知したように乗り出した。
「もしかしていたいげな女の子を夜な夜な襲おうとか思ってるんじゃないでしょうね!!」
「ま、待て。女の子と言う部分をあえて無視したとしても『いたいげな』の部分は……」
俺は発言した後に自分の失態に気付いてしまった。
駅のホームは行きかう人の波で絶えず時を刻み続けているはずなのだが、
その空間だけはまるで魔法が掛かったかのようにとまっている。
「い、いやぁ……悪気があった訳じゃないんだ。つい口が滑ってさ……」
俺の目にはそこは駅のホームでは無く、荒れ果てた大地のように見えた。
もう何を言っても無駄だ。
そこは人としての生死を掛けた修羅場なのだ。
そこに闘士『麻衣』の拳が俺の米神目がけ放たれた。
俺は間一髪その拳を振り払い、一目散で逃走する。
「マツノダ。オマエニニゲバハナイ」
「ひ、ひぇぇぇぇ~~~」
改札の手前で切符を駅員に投げつけて俺はただ生きるために全力で走る。
必死に逃げる俺。もはや人とは言いがたい麻衣。
どうして良いかわからずただ付いて行く麻里。
三人の上京生活はこうして幕を空けた。
「これからどうなるんだよ……」
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