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 第九話 消えた記憶

 平井は当ても無く広い廊下を歩き続ける。
しばらく歩いていると裏庭らしきところへ出た。
備え付けの下駄を履き、月明かりが反射する広い湖へと足を進める。
その先には座っている人影が見える。
平井は何も言わずその人影の左横に座る。
「キャー!!」
突然立ち上がり叫びだす女性。
それは姫神だった。
「何で平井さんがここへ!?」
姫神はあたふたとしていた。
「何でって言われても俺が知りたいぐらいだよ。
 初めて来たはずなのになんとなく見たことあるような気がしてさ……
 気づいたらここまで来ててずっこい変な感じなんだよ」
姫神はずっとちょうど月の光が溢れてる様に見える湖の向こうの山を見つめていた。
「そう言うのは意外とありますわよ。私はあまり体験したことが無いのですが……」
「そう言う……ものなのかな……」
平井はまだ疑っている様子だ。
「ええ。絶対そうですわよ」
真夏とは言えども山の朝は冷える。
寒いせいなのか、二人の距離は少しずつ縮まっている。

「でもどうしてこんな所に一人でいるんだ?
 結構冷えるし風引くぞ」
平井はやっと違和感が取れたのだろうか。
さっきまで気にしなかったが何故こんな所に
しかも薄着のピンクの水玉模様のパジャマで姫神がいるのか
当然変なのだが今まで気付きもしなかった。
「それはお互い様じゃないかしら?」
姫神はそっと流した。
「俺はさっき言ったみたいにさ、ふらふらしてたらここに
 辿り着いたんだよ。でも姫神はここの事なら知ってるだろうし
 来るならもっと着込んできたらよかったのに」
平井はそれでも問いただす。
「ここが好き……なんです。
 思い出の場所……と言うと言い過ぎかも知れませんが……」
姫神はゆっくりと視線を上げた。
そこには入りきらないぐらいのたくさんの星達がキラキラと輝いていた。
「思い出の場所……か」
平井も同じように空を見上げた。


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