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第八話 別荘へ行こう! 
前編 - 出発 -

八月一日、昨日は生憎の雨だったが、そのことを忘れさせてしまうほどの雲一つ無い快晴である。
まさに旅行日和と言うに相応しい一日になりそうだ。
姫神からもらった旅のしおりには午前九時学校前集合と書かれていた。
平井は予め竜也とゆいと一緒に行く約束をしていたので三十分前に竜也達の家に着いた。
呼び鈴を押すとまるで玄関の前でずっと待ってたと思わせるほどのスピードでゆいが飛び出してきた。
「平井先輩ー!! 待ってましたよー」
平井は危険を感じひらりと飛び掛ってくるゆいをまるで闘牛士のようにかわした。
「あぁ~~~~」
ゆいはまるでスローモーションになったかのようにゆっくりと平井を見つめながら道路へと飛び出していった。
思いっきり地面に叩き付けられたゆいは涙を流しながら頭を抱えていた。
「平井先輩!! 避けないで下さいよ!!」
「条件反射だ。と言うかいきなり飛び掛ってくるお前が悪い」
ごもっともである。
「もぅ……」
平井はゆいを置き去りにして二階にある竜也の部屋へ向かった。

約束の時間を過ぎても竜也はまだ爆睡中である。
「ゆいちゃん、約束の物は買ってきてるか?」
「ちゃんと持ってきてますよー」
ゆいは平井に完熟したトマトと洗濯ばさみを渡した。
「よし、では今から竜也を快適に起こしてあげよう作戦を実行する」
「頑張って下さい平井教授!!」
大きく口を開けながらいびきを掻く竜也の鼻を洗濯ばさみではさんだ。
「ん……ぅんん……」
少し険しい顔になったがまだ起きない様だ。
「よしゆいちゃん、第一関門は突破だ。今から最終関門に入る」
「了解です平井教授!!」
平井は竜也の口の中へトマトを突っ込んだ。
「ん、ううん。ぅうぐぐぐぐわあぁぁあ!!」
当然息も出来ないので竜也はものすごいスピードで起き上がった。
「お、お前ら殺す気か!!」
竜也は怒っているようだが、口の周りがトマトだらけになってる顔では逆に笑えてしまう。
平井とゆいはその場で笑い転げた。
「まじでお前ら性格悪いよな」
竜也はイライラしながらも急いで着替えを済ます。
「何を言ってるんだ。約束の時間過ぎてるのにもかかわらず寝ているお前に言われたくないね」
「そうだそうだー」
ゆいは竜也に指を指しながら皮肉っぽく言った。
「……ったく」
さすがに竜也も二対一じゃ勝ち目が無かった。
時間も迫ってきているので急いで三人は集合場所の学校へと向かった。

急いだ結果、平井、竜也、ゆいの三人は何とか八時五十八分に学校へついた。
「み、みんなサッカーやってるのに……私も走れなんて無茶すぎ……」
平井と竜也に引っ張られながらも走らされたゆいはもう喋るのも精一杯と言う感じだった。
「これも誰かさんの兄のせいだ。我慢しろ」
平井は駄々をこねるゆいにきつくあたった。
「兄なんて居ないのも同然だわ……」
「そこは無理して言わんでも良い!!」
竜也は慣れた手つきでゆいに突っ込みを入れる。
何だかんだで招待してと頼んだ平井達だが、結局姫神が一番待たされてると言う最悪な状況になっていた。
姫神はぷんっとすねた表情をしている。
「や、やぁ、待たせたな」
平井が軽く挨拶しても姫神はしらんぷり。
「平井君達おはよう!」
小林も今来たのかと平井は一瞬思ったが、手にはジュースを持っており、なおかつ鞄がすでに地面に置かれていた事から、
姫神の気分が悪いのを察知し気を利かせて飲み物でも買ってきたのであろう。
少し離れた所に高級そうな黒の車が二台並んでいた。
実際喉が渇いたぐらいなら自分で買うかおそらく車に乗っている執事っぽい人に頼むであろう。
平井は心の中で小林に感謝した。
だが、姫神が不機嫌な理由は平井達だけではなかった。
もう九時を過ぎているのにもかかわらず、まだ北島と小海の姿が見えない。
ずっと前に平井達とデートした時もそうだったがおそらく北島の寝坊だろう。

九時十五分に指しかかろうとした時、一台のタクシーが学校前で止まった。
「ご、ごめーーん!!」
「遅れて大変申し訳ありませんでした」
急いでこちらに走ってきたのは言うまでも無い。あの二人だ。
「小海が中々起こしてくれなくてね……ってもうバレてるっぽい?」
平井と竜也は大きく首を縦に振った。
「ま、まぁ……ごめんなさい!!」
北島は手を合わせ大きく頭を下げた。
「ま、これで集まったみたいなので行きましょうか皆さん」
姫神のテンションは今もなお下降中である。
「お好きな車へどうぞ」
皆は個人個人車に乗り込んだ。
「別に見た感じ同じ車だし選ぶほどでもないんじゃないか?」
そう言って平井は一番手前の車に乗った。
「その車は私のお車ですのよ。あちらの車よりは揺れが少なくなるように特注で作らせましたの」
姫神は少しテンションが上がってきたらしく、上機嫌に自慢をした。
「へぇ、俺車とかあんま乗らないから揺れが少ないほうが気が楽だな」
姫神が先に乗り込み、平井の手を取り中へ案内した。
「俺も揺れが少ないってのは嬉しいな。こっちにしよ」
竜也も乗り込もうとしたその時、何者かの拳が竜也の腰に突き刺さった。
「ぅ゛っ……」
竜也はその場で蹲った。
北島が平井達の乗っている車に入ろうとしたその時、腕の間をかき分けてゆいが車の中へ入っていった。
「平井先輩は私の横がいいよねー」
ゆいは上機嫌で平井の腕に抱きついた。
「ってかこんな暑い日に引っ付くなよ。ってかまぁこれで三人ずつだし後はあっちで頼むよ」
平井がそう言うと北島はがっかりしたように、竜也は苦しそうに、小海は竜也を心配そうにしながら前に駐車してある車へ乗り込んだ。

車はゆっくりと走り出した。
竜也達が乗る車を先頭に姫神達を乗せる車が後を追うように進み出した。
だがこの楽しくなるはずだった旅行もこの車内からすでに崩れ始め掛けていた。

 竜也、北島、小海が乗る先頭の車では北島が一人暴走していた。
「何なのよあのガキは!! 人の横から勝手に入ってきてさ!! どんな教育したらあんなのが生まれる訳?
 ねぇ、聞いてるの西野!!」
完全に八つ当たりである。
「俺も知らねぇよ! 大体何で俺に言うんだよ。第一別荘に着いたら一緒に居るんだし別に良いじゃないか!」
北島の拳が竜也の右脇腹にヒットする。
「う、うぎゅぇ」
「あんたは分からないのよ! 最初のアタックが肝心なんでしょ!!」
「……」
竜也は呼吸も間々ならない状態だった。
「ちょっと! 聞いてるの西野!!」
再び北島の拳が今度は右胸にヒットする。
「し……死ぬ……」
一番右の席で北島が暴れているのにも係わらず、小海はただ黙ってずっと本を読んでいた。

 その頃ゆい、平井、姫神が乗る後ろの車でもなにやら騒がしい事になっていた。
「平井さん、このポーチどう思いますか?」
突然姫神がボロボロになった小さなピンク色のポーチを取り出した。
「へぇ、お前って金持ちの癖に物を大切に使うほうなんだな」
平井は姫神を感心する。
「違うんです! このポーチに身に覚えがありますかって言っているのです!」
平井はそのポーチをじっと見つめた。
「知らないね。ってか俺が何であんたの持ち物知ってるんだよ」
姫神はがっかりしたように肩をおろした。
「そうですか……仕方ないですわね」
「って言うか平井先輩ー。ゆいお腹すいたよー」
ゆいは退屈そうに平井の腕にしがみついた。
「俺に言われても知らん。って言うか車の中でしがみつくな! せっかくこんだけスペース開いてるんだから
 有効に使えよ!」
平井が必死で振り払おうとしてもゆいはがっちりとしがみついて離れない。
「ゆいは平井先輩の横がいいのー」
「ゆいさん、運転の邪魔になりますので大人しくしてもらえませんか?」
いつのまにか復活していた姫神が優しくゆいに言った。
「ゆいつまんないよーまだ着かないのー」
段々と姫神がいつもの表情へと変化している。
平井はそれを見て「お、いつものあいつだ」と心の中で思った。
「ちょっとあなた! じっと出来ないなら外に放り出しますわよ!」
ついに姫神が切れてしまった。
その後、別荘に到着するまで平井を挟みながらずっと二人は口論を続けた。

 ビルの山々をかき分けて皆を乗せた二台の車は燦々と山々が聳え立つ中をすり抜けて小さな駐車場の前に止まった。
「皆様、御到着致しました」
運転手がドアを開け、数時間ぶりに皆は外へ出た。
イライラしている姫神、ゆい、そして北島。
平然としている小海。
疲れきってぐったりしている平井と竜也。
それぞれをまるで優しく包むかのように緑の中をかき分ける様に優しい風が注ぐ。
「お久しぶりですわね。ここに来るのも」
苛立ちや疲れもその美しい世界を前に、どこかへ消えてしまった。
少し前まで木々すら珍しく見えたのに、今では逆に緑しかそこには無い。
「さぁ、こちらへどうぞ」
運転手に案内され、まるでそこに元からあった自然に出来たような道を皆は歩き始める。


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