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魔法戦争 第二話



   第二話  大逆転


 男の一振りで何十体ものバームが空に舞う。
その光景は場違いだが綺麗にも見える。
「どうした少年! お前も戦わないなら一人でも構わないがな」
次々にバームをなぎ倒す男。
その残りを必死にフェイルが斬りかかる。

「ち、殺しても殺しても沸いてきやがるぜ。やつらもついに本腰って訳か?」
男はバームを次々と殺しながら独り言をつぶやいている。
「さすがのフェニーさんもお手上げですか?」
フェイルの耳にまた違う男の声が聞こえてきた。
その方向に目をやると宙に浮かぶ青いローブを着た謎めかしい男がいた。
「おいジス! ぼぉっとしてる暇があったら手伝えよ!」
フェニーはジスが来たと見なくとも分かっていたようだ。
「残念ですねぇ。私はフェイルさんの護衛が任務なのであなたを助ける筋合いは無いのですが……」
何ともこの状況下でやる気の無いジス。
「分かったよ! タルラス酒一杯おごりゃいいんだろ!?」
ジスは悩ましい表情を見せた。
「分かりましよ。三杯で呑みましょう」
「さ、三杯!? 今日の任務タダ見たいなもんじゃないか……」
フィニーの戦力は急降下していった。
「仕方ありませんねぇ。それではフェイルさんの護衛役と交代しましょう。
 それで文句ないですね?」
フィニーは段々イラついて来たのか。腹いせのようにバームをなぎ倒しまくっていた。
「分かった分かった!! もともとはそっちのほうが良かったんだ……」
「では交渉成立と言う事で……」
ジスは手を合わせ、何やら小言を呟き始めた。
「フェイル!! 逃げるぞ!!」
「え!?」
フィニーはフェイルを片手で抱き上げ、村のほうへ一目散に走り出した。

「あ、あの。あの人に任せていいんですか? まだたくさん残ってますが」
抱きかかえながらもフェイルはフィニーの顔を見上げるように話しかけた。
「数が多い系はあいつが一番適任なんだ。それより自己紹介がまだだったな。
 俺はフィニー。五勇者の落ちこぼれだ」
「え!?」
五勇者とはこの世界の中心である神都ガルセラントにいる神セファイスを守るために集められた
あらゆる分野に長けた最強集団である。
フィニーはもともと五勇者の候補ではなかった。
だがガブリスが五勇者に入ることを拒んだため、フィニーが戦士としてこの地位を得た。
本人が落ちこぼれと言う様に五勇者の中で一番煙たがられている。
「それじゃあの浮いてた人は魔法使いのジス様なんですか!?」
五勇者には戦士のフィニー、魔法攻撃のジス、魔法防衛のロンス、治療のエルス
そして知恵のアリスと名前の通り五人存在する。
「そうだ。あいつに任せときゃ問題無い」
その時凄まじい熱風が二人に突き刺した。
「こ、これで大丈夫だろう」
「……」
フェイルはその強さに圧倒される事しか出来なかった。

 フェイル達が村に戻った頃にはいつも人々で活気ある状況とは打って変わって静まり変わっている。
フィニーから降ろしてもらい、村の中を歩く。
いつもの見張り台、果物や野菜が立ち並ぶ市場、見慣れてしまっていたはずの風景が新鮮に見える。
そして自分の家。
「フィニー様、ちょっと寄ってもいいですか?」
フェイルは一軒屋の前で立ち止まる。
「今更だが様って言われるのは慣れて無くてねぇ……
 せめてさん付けにしてくれないか?」
フィニーは照れくさそうに頭を掻いた。
「まぁ逃げた連中が無事にポムに辿り着いたって言う保障もねぇ。
 出来るだけ早く合流してぇから早くしてくれよ!」
「ありがとうございます!」
フェイルは急いでドアを開けた。
一目散に父アランの部屋へ行き、錆びた剣を持ち出した。
フェイルは自分の剣を地面に捨て、錆びた剣を腰に挿した。
「なんだその腐った剣は……」
フィニーは思わず唖然とする。
「そんな事言わないでください! これはおじいちゃんが僕が一人前になったらくれるって言って
 父さんが持っていてくれた剣なんです!!」
その時、フェイルは緊張の糸が解けたのだろうか。
父の死をあまりにもたくさんの事が起こりすぎて考える暇も無かった。
その間の苦痛悲しみが一気にフェイルに圧し掛かる。
「父さん……」
フェイルの表情でフィニーはすぐ状況を理解した。
「坊主、お前はまだこの広い世界の中でこんなちっぽけな村のことしか知らないだろうがな
 この世界には恐ろしい事や残酷な事はもっとたくさんあるんだ。
 ガブリスにしろアランにしろもう戻っちゃ来ねぇ。
 俺も父親を早くに亡くした。
 でもこの世界には助けてくれるやつなんて一人もいねぇんだ。
 自分で何とかするしかねぇんだよ。
 どうだ? お前がここでくよくよしてるもったいねぇ時間を俺達、いや残されたみんなのために
 分けてやってほしいんだがよ?」
フィニーなりの慰めだったのだろうか渇だったのだろうか。
だが、フェイルは幼くともガイラスの戦士だ。
自分の心に負けてられない。
小さな少年は自分の持てるだけの勇気を右の拳に握りつけた。
「ですね……母さん達を助けに行きましょう!」
力強い言葉と裏腹に右目から溢れてくる何かがあった。
フィニーはフェイルの頭を強く叩いた。
「よし! そんじゃ急ぐぞ!!」
フィニーはまたフェイルを抱きかかえてポムのある北西の方角を目指した。

 しばらく道なりに進むと逃げていたはずのガイラスの民が持ち出した荷馬車が木っ端微塵に散乱していた。
「こ、これは……」
二人は嫌な予感がした。
「クックックッ、ヤットアラワレタカ」
後ろを振り返るとまるで二足歩行の大きな蟷螂みたいで大きなはさみを両手代わりにした全身赤く染まったモンスターが立っていた。
「っちぇ、ジスケットか。しかもなかなか高ランクのやつみたいだな」
ジスケットはバームより遥かに凶暴で知恵を持ったモンスターだ。
一般的には三段階のランクがあり、その中でも最上級のジスケットだ。
「フィニーさん。みんなが……」
フェイルが指を刺した方向には身体がバラバラになった大量の死体が散乱していた。
「マチキレナカッタ。ヒマツブシニアソバセテモラッタ」
ジスケットは自らのはさみを二股に分かれた舌で舐め回している。
「坊主、ここは引いた方が良いな……俺たちゃ到底かなわねぇ……」
ジスケットは六本の指が生えた足で地面をかき回す。
「ニゲル? ソンナコトガデキルノカ?」
ジスケットは猛スピードでフェイルに襲い掛かる。
「坊主!!」
フェイルは間一髪で交わしたが頬からは風圧で斬れたと思われる傷口から血液が溢れ出す。
「こんな所で諦める訳にゃいかねぇんだよー!!」
フィニーは大剣をジスケット目掛け突き刺す。
「フッ、トロイナ」
まるで余裕を見せるかのようにすっとフィニーの攻撃を交わす。
「オマエニヨウハナイ!」
ジスケットの足がゴムのように伸びていき、フィニーの腹部にヒットする。
「ぐ、ぐあぁぁ」
地面を削り上げながらフィニーは数十メートルほど吹き飛ばされる。
フェイルも逃げられないと判断し、剣を構える。
だが足が震え上がり、立っているのも精一杯と言う感じだ。
「コゾウ、シヌノガコワイカ? メノマエニコンナニシタイノヤマガアル。
 オマエダケイキテモシカタガナイダロ?」
フェイルは無残にもモンスターによって一夜に両親を亡くした。
今日の朝まであんだけ賑わっていた光景が無常にも頭を駆け巡る。
「みんな……みんなお前達のせいで死んでいった……
 でも……僕はもう泣かないって決めたんだ。そして誓ったんだ。
 もう……もうお前達の好きにはさせない!!」
フェイルは剣を強く握り締めた。
「タワゴトハソレダケカ?」
ジスケットは右手でフェイル目掛け薙ぎ払う。
「くっ!!」
フェイルはやはり避けるだけで精一杯で相手の間合いで踊らされてるだけだ。
「コシャクナ!!」
ジスケットは両手でフェイル目掛け突き刺す。
「うぁあ!!」
フェイルは避けきれず、地面に転がってしまう。
ジスケットは首元に右手を突き刺した。
「コレデニンムカンリョウダ!!」
その時、遠くから声が聞こえてくる。
「俺を忘れるんじゃねぇー!!」
フィニーは両足に隠してあった短剣を取り出した。
「おりゃああー!!」
短剣をジスケットの細い首元を狙って投げつけた。
「ナ、ナニ!!」
ジスケットの首は地面に転がり落ちた。
「マサカイキテイタトハ……サスガハゴユウシャトイウトコロカ」
転がり落ちたにもかかわらず、ジスケットは何事も無かったように
頭だけでも喋っている。
「五勇者ってのはなぁ! そんなこんなで死んでたまるもんじゃねぇんだよ!!」
フィニーは背に掛けた大剣でジスケットの頭目掛けて突き刺した。
大剣が刺さった状態でもジスケットは何事も無いような表情をしている。
「ツギハナイトオモエ、カナラズコロス!!」
斬り口からは妙な異臭と青白い煙が噴出している。
「坊主、良くやったな。こいつは何をしても物理攻撃じゃすぐ回復しやがる。
 先を急ぐぞ!」
フィニーは大剣を引き抜き背に掛けた。
「はい!」
フェイルは両親の死の重みをも乗り越え、ポムの町へ急いで向かうのであった。



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