楽天市場
[無料でホームページを作成] [通報・削除依頼]

test2-2


第五話 サッカー


段々と二年生と言う実感も沸き始め蒸し暑くなってきた頃、
また風紀委員の集まりに平井と小林は風紀委員室に呼び出された。
今回も姫神が教壇の上で熱弁している。その最中、平井はずっと窓の外を見ていた。
楽しそうにサッカーをしている人達。その中には平井が昔サッカーをしていた頃の知り合いもちらほらいる。
平井の頭にはもうサッカーのことばかりになっていた。
(楽しそうだな……)
平井はサッカーをしていた頃の楽しかった日々、つらかった日々、試合に勝ったときの喜び、負けた時の悲しみ。
いろいろな気持ちを抱き、ただずっと窓の外を見ていた。
「わかりましたね!! ちゃんと先生の許可は取ってありますから!」
「はーい……」
風紀委員のみんなは何だかやる気の無い返事をしている。
「小林、いったい今から何をやるんだ?」
姫神の話を全く聞いていなかった平井は小林に問いかけた。
「平井君聞いてなかったの? 今から全員でプール掃除だって」
「え!? まだプールの季節には早くないか?」
「何だって今から掃除して綺麗なプールで泳ごうだって。でもあれって毎年一年生が掃除するのにね」
「まぁあいつなら言いそうなことだな」
「あいつって私のことですか!?」
ひそひそと話していたつもりが姫神にはまる聞こえだったようだ。
「い、いやぁ……」
平井ははぐらかして見たが、意味が無かったようだ。
「早くプールに行くわよ! 平井さんは私がじきじきにご指導してあげますわ!!」
「……」

平井と小林、そして姫神と三人でプール前の更衣室の掃除をすることになった。
「それじゃ女子更衣室の掃除、始めますわよ」
「ま、待ってくれよ。俺男だぜ? そんなの二人でやってくれよ」
平井は男子更衣室に逃げ込もうとしたが、姫神に腕をつかまれ、取り押さえられた。
「あなたはどうせろくな掃除をする気が無いんでしょ? 別に誰かが着替えている訳でもないしこっちを掃除しなさい」
姫神に無理やり女子更衣室に連れ込まれた。

男子の更衣室より少し広いだけなのに何か異様なオーラが出ていた。
女の子の匂いと言うか何と表現したらいいのかわからない空気がそこにはあった。
「さて、私と小林さんはロッカーの掃除、平井さんはシャワールームの掃除をお願いするわ」
三人は個人個人の持ち場に着き、掃除を始めた。

六つあるシャワールームを平井は一つずつ洗い始めた。
シャワーでお湯を出し、用意されたスポンジで掃除をする。
「石鹸を転がりっぱなしだし、ここの女子ってまじでがさつだよな」
平井は思わず愚痴をこぼしている。
「ちょっと平井さん、ちゃんと掃除を。きゃ!!」
点検しに着た姫神が無造作に置かれた石鹸に足を滑らせた。
「お、おい!」
何とか頭から落ちることは間逃れ、間一髪で姫神を抱きかかえた。
「危ないな、しっかり床ぐらい見て歩けよ!」
「ご、ごめんなさい……」
姫神が素直に謝って来たので、平井は少し驚いた。
「姫神さん、大丈夫!?」
声を聞いて小林も駆けつけた。
「だ、大丈夫です……平井さんに助けてもらったので……」
姫神の顔はほのかに赤く染まっていた。
「俺はちゃんと掃除してるからな。そっちも頼むぞ」
平井は姫神を立たせ、そのまま掃除を始めた。

「小林さん」
姫神は二人で掃除している最中に手を止め、小林に不意に問いかけた。
「え? 何ですか?」
「好きな人……っています?」
「な! 何ですかいきなり!!」
思いもつかなかった姫神の発言に小林は動揺してしまう。
「聞いてみただけなの。別に気にしなくてもいいわ」
そう言って姫神はまた掃除を始めた。
「いない……訳でもないかな……」
掃除をしながら小林はぼそっとそうつぶやいた。
「そう……なら頑張らないとね」
「頑張るって何をですか?」
「ううん、気にしないで」
そう言った以降、二人は黙々と掃除を始めた。

数時間ののち、掃除も終わって更衣室の外で三人は腰を降ろした。
「見た感じそこまで汚れているって思わなかったけど、掃除してみると結構汚れているものですね」
小林は、外に置いていた鞄からタオルを取り出し、汗をぬぐった。
「そりゃ一年近くずっと放置していたんだからな。当然だろ?」
平井は腕で汗をぬぐった。
「掃除をしたあとは本当に気持ちがいいわね」
姫神は大きく深呼吸をした。
「それでは私はプールサイド係のほうの点検に向かうからここで解散しましょう。
それじゃあね!」
「はい! お疲れ様です!」
小林は小さくお辞儀をした。
「またこけるなよ!」
「だ、大丈夫よ!!」
そのまま姫神はプールの中へと向かった。
平井は自分の鞄を手に取り、校庭へと向かった。
「平井君、それじゃまた明日ね!」
「おう!」
小林はそのままグラウンドの方へと向かった。

平井が校門を抜けて家路に向かおうとした時、足元にサッカーボールが転がってきた。
「すいませーん! ボール取ってくださーい!!」
おそらく一年生のサッカー部員であろう。遠くの方で平井に叫んでいる。
平井はサッカーボールを拾い、白と黒の見慣れた柄をずっと見つめていた。
サッカーボールに触れたこと自体が久しぶりだった。
昔の平井なら蹴ってもそう遠くも無い距離だ。
でも平井には自信が無かった。
今の自分でも出来るのだろうか。
平井の中に不安が立ち込める。
「ありがとうございまーす。こっちに投げてくださーい!!」
新人のサッカー部員がこっちに向かってくる。
平井は闇雲にボールを蹴った。
ボールは大きく中を舞い、サッカー部員を通り越していった。
「す、すごい脚っすね。クラブ入ってないんでしたらサッカー部一緒にやりませんか?」
「い、いや……」
平井の中で、一つ吹っ切れた気持ちになったが、まだ決心がつかないようだ。
「ごめんね平井君ー!!」
小林がこっちに向かって走ってきた。
グラウンドを横断するように来た小林は平井の目の前に現れた時にはすでに息切れ状態だった。
「別に……俺はもう帰るから」
平井はそのまま校庭から外に出ようとした。
「待って……この際話しておきたいのよ」
小林は平井の腕を掴み、止めた。
「何だよ話って」
小林は握っている手を離した。
「サッカー部のこと……やっぱりまたサッカーをしたいんじゃないの?」
「……」
二人はそのままグラウンドの外にあるベンチに沈黙のまま座った。
「俺はまだやる気は無い。以前もそう言ったはずだったけど」
平井の目線はサッカーをする青年達に向けられていた。
「今日も風紀委員室でずっとサッカー見てたじゃない。私知ってるんだよ」
「……」
平井は言い返す言葉が見つからなかった。
「しつこいって事は私も分かってるんだ。でも平井君のため……やっぱりサッカーしたいと思ってるんだって思うから!」
小林は平井の目をじっと見つめた。
「俺は……」
本当は今すぐにでもサッカーをやりたい気持ちがある。
ただ、今からサッカーを始めても皆に着いて行けるかどうかが不安だった。
みんなの足手まといになるかもしれない。そんなことがずっと頭によぎっていた。
だがさっきサッカーボールを久しぶりに蹴った時、平井は迷いを断ち切ったようだ。
「やりたい……俺はまたサッカーをやりたい」
平井はついに本当の気持ちをさらけ出した。
「平井君……」
「でも俺またやる時は竜也と一緒って決めてたんだ。今日聞いてみるよ」
「うん! 明日楽しみにしてるね!!」
「ああ」
平井はそのまま竜也の家へと向かった。
小林は万遍の笑顔で平井を見送った。
夕焼けに染まった空が、小林の笑顔をもっと光り輝かせた。

小林はグラウンドの後片付けを終え、自分の家へと戻った。
お風呂に入り、自分の部屋でドライヤーで髪を乾かしていた。
「平井君が……」
小林は昔のことを思い出していた。

それはまだ小林が小学校に入学したての頃だった。
「竜也、行くぞ!」
「任せとけって!!」
公園で楽しそうにサッカーをする少年達は、幼い頃の平井と竜也だった。
「楽しそうだなぁ……」
小林は楽しげにサッカーをする二人に見とれてしまった。
自分もサッカーをしたいと思ったが、女である以上学校のサッカー部に入部がすることが出来なかったので
マネージャーとしてサッカー部に入部することになった。
当然、平井と竜也もサッカー部に入部していた。
小林はマネージャーの仕事をしながら、一際上手な平井に見とれていた。
(私はサッカーは出来ないけど、少しでもみんなの役に立ちたい!)
見ているだけで楽しい気分にさせてもらっている分、小林は一生懸命マネージャーの仕事に励んだ。
だが、そんなつらくても楽しかった日々は長くは続かなかった。
小学五年生になろうとしていたその時、事件は起きた。
平井と竜也の母親が何者かによって殺害されてしまった。
そのニュースはあくる日一斉に校内中に知れ渡った。
平井と竜也はしばらく学校には来なかった。
当然部活にも二人の姿は無い。
小林は寂しい気持ちでいっぱいになってしまったが、マネージャーである以上仕事は着々とこなしていった。

しばらくして二人が学校に戻ってきた。
小林はすぐさま平井の元へと駆けつけた。
「サッカー? そんなものもうやらないよ」
「え!?」
平井にはサッカーをやる気力なんてものはこれっぽっちも残っていなかった。
あの明るく元気な平井とは全く別人のようになっていた。
小林はもうあの元気な平井を見れないと思うと悲しい気持ちでいっぱいになった。
それ以降、平井と話すことは全く無くなった。
中学は小林と平井は別々になってしまったため、しばらく話す所か会う機会すらなくなってしまった。
小林は中学でもサッカー部のマネージャーに入った。
いつか平井のまた楽しくサッカーをする姿をずっと夢見ていた。
明日、すべてが決まる。
小林はそのまま明日を楽しみにして眠りについた。

数時間前、西野家では……
「お、平井が家来るなんてめずらしいな」
「ちょっとな」
平井家と同じく、父親は多忙なため家にはいない。
めずらしく今日はゆいもいなかった。
西野家には平井と竜也の二人きりだった。
「まぁ俺の部屋に来いよ」
二人は竜也の部屋へ向かった。

二人は部屋の真ん中にあるコタツの中に足を入れ、腰を下ろした。
「何だよ急に」
竜也は手を伸ばして小さな冷蔵庫の中からジュースを取り出し、平井に渡した。
「お、サンキュー」
半分ぐらいジュースが残っているペットボトルをそのまま口を開けて飲んだ。
「今日はちょっとサッカーの事……ちゃんと話に来たんだよ」
平井はペットボトルをコタツの上へ置いた。
「あれ本気だったのかよ」
「ああ」
竜也はしばらく何を言わなかった。
険しい表情を浮かべながら。

「俺はお前がやりたいんなら良いと思う。俺もお前に合わせるよ」
「悪いな竜也。お前とじゃないとサッカーやってても面白くないからな」
平井は再びジュースを飲んだ。
「それは俺も同じだぜ?」
平井が飲み終わり、コタツに置いたジュースを竜也はそのまま口をつけ飲み干した。
「サッカーか……それじゃ平井、今から公園にでも行くか! 肩慣らしによ」
「そうだな」
二人は家を出て、物置からボロボロのサッカーボールを取り出した。
「これでやるのかよ。もうちょっとましなやつは無いのか?」
「つべこべ言うなよ! サッカーなんてもう二度とやらないと思ってたんだからな。置いてあるだけましと思ってくれよ!」
「まぁそうだな。よし! 公園まで競争だな」
平井は先に公園に走っていった。
「ま、待てよ! ずるいじゃねぇか!!」
竜也も平井の後を追った。

平井と竜也は、ほぼ同時に公園に着いた。
「やっぱ竜也足速いよな。俺の方が先に出たのに」
達也の家から公園までは約一キロほどあるが、二人は全速力で走ったものの息切れ一つ起こさなかった。
「サッカーは足の速さだけじゃない。そう言ってのお前じゃん」
「そうだったな」
平井は持っていたボールを地面に叩き付けた。
「よし、久しぶりにやるか!」
二人は無我夢中でボールを追いかけた。

まだ薄明かりが残っていた空は、平井達が気づかないうちに星が煌く夜空へと姿を変えていた。
「さすがに少し疲れたな」
「久しぶりだからな。仕方ないだろ?」
二人は公園のベンチで汗を拭っていた。
「あれ? 平井さんと西野さんじゃないですか?」
偶然公園の前を通りかかったのは大前だった。
「おう! 小海ちゃんじゃないか」
大前は小さな買い物袋を手にしていた。
「やっぱり西野さんと平井さんですね。どうもこんばんは」
大前は軽く頭を下げた。
「どうしたんだ? こんな時間に」
「ちょっと妹が熱を出してしまったのでご飯を作ってあげようと。平井さんと西野さんはこんな時間までどうしたんですか?」
「サッカー部に入ることになったらちょっと練習してたんだよ」
「そうなんですか」
大前の買い物袋からはネギが一本はみ出していた。
「でも偉いよなぁ。たぶん俺がご飯作ってあげる何て言っても何入っているか怖がって食べてもらえそうにないよ。
それにしても小海ちゃん妹いたんだ」
「ええ。小梅と言う二つしたの妹がいます」
「いいお姉さんなんだね」
「ありがとうございます」
大前は平井に頭を下げた。
「まぁでももう遅いから早く帰らないとな。竜也帰ろうか」
「そうだね、小海ちゃん途中まで一緒に帰ろうぜ!」
「わかりました」
平井と竜也は大前と共に自分の家へと帰った。
帰り道、大前の妹の話で竜也は羨ましそうに聞き入っていた。


前へ  次へ