Dead After
女は何も言わず俺の腕を握り締め引きずり始めた。
「ちょ、ちょっと待て。痛いって!」
俺の静止に耳も貸さず、そのままこのシンムの街を出た。
どれだけ引き釣り回されたろうか。
人の気配も無い、日も沈まない世界を途方に暮れる時間歩かされている。
この世界は一体どうなっているんだ。
この世の終わりとも言える様な荒れ果てた大地。
稀に草木らしきものがちょろちょろ生えている程度。
あとは砂埃舞う荒地か断崖絶壁の山々しか無い。
海らしき水場も無い。
ここは地獄なのだな。
そうに違いない。
ふと気づけば岩の割れ目に向かって俺は放り投げられた。
「い、痛ぇ……」
女は中に入ってくる様子も無い。
俺はこのままこの女の食料にでもなってしまうんだろうか……
「心配するな、彼女はそんな事は稀にしかせん」
聞き覚えのある声がする。
この洞穴は岩の隙間から入る微量の光以外辺りを照らすものは無い。
だが、確実に奥に人の気配がする。
「どけ!」
突然現れた女に俺は突き飛ばされる。
「い、痛ぇなぁ!」
女はそのまま何も言わず洞穴の中で持ってきた薪に火をおこし焚き火をはじめた。
「お、おい! こんな所で焚き火なんてやったら一酸化炭素中毒で死んじまうじゃないか!」
俺は慌てて火を消そうとしたが火は全く消える気配が無い。
そもそも燃え上がった炎から全く熱を感じない。
「あ、あれ?」
「何を言っておるんだ。お前さんはもう死んでおるんだぞ」
明るく照らされた洞穴の奥からシンムで会った長老と全く瓜二つの老人が座っている。
「う、うわぁ! 出た、出たー!」
幽霊だ。
あれは幽霊だ。
遂に死後の世界で本物の幽霊を見てしまった。
ん?
待てよ。
死後の世界って事は、俺も幽霊じゃないか。
「ははは、ははは」
思わず笑いが出てしまった。
「頭が可笑しくなった様だな。まぁ良い。
この世界の説明の続きとお主の役割について話そうかな」
老人は落ち着いた様子で淡々と話し始めた。
「まずはこの世界。お主には死後の世界と言っておいた方が分かり易いだろ。
この世界は昔と違って来世の時が他の魂の欠片を奪い合うことによって成り得る話はしたと思うんだが
実はもう一つ来世の時を迎える方法がある。
それは私、フェアンと名だが私の力を利用すると来世の時を迎えられるようになっている。
弱い魂でも良い魂であれば来世の時を迎えられるようにしたセファイスの心意気だな。
だが、それを利用して悪い魂が来世の時を思うがままに迎えれるようにしておる悪い連中がいる。
そいつ等を殲滅するのがセファの使命。
セファとは彼女の名だ。
勝手にこの老いぼれが付けた名なので正確な名は無い。
そしてそのセファを助けるために生み出されたのはファイス、お主のことだ。
どうかね? この老いぼれを助けると言う意味にもなるがセファイスの唯一の願い、
聞いてやってくれないかね?」
何だかこの世界は大分深刻になっているのだな。
俺が出来るのであれば協力してやりたい気持ちはある。
だが俺に何が出来る。
「フェアン! 特殊と言えどもこんなちんけじゃ能力で足手まといだ」
セファは俺の善意を踏みにじる。
だが正論でもあるし言い返せない。
「セファ、お主だってこの世界に来た時はレベルで言えば低かった。
成長すればきっと助けになる」
セファは怒り狂った様に怒鳴る。
「私は一人で良い! これまでもこれからもよ!」
フェアンは立ち上がり、セファの耳元で何やら呟いた。
「大丈夫だ」
かすかにそう言ったように聞こえた。
セファは何も言い返さなかった。
「ファイス、シンム以外に私の仲間は八人居る。
皆は魂と言う存在ではなくこの世界の門番、言わばこの世界の一部になる。
だから来世の時が来ることは無いんだがな……
だが、実際にシンムの魂は来世の時が訪れる事は殆ど無い。
魂が来世の時を迎えるのにはある程度限界があって今悪用されている分でいっぱいいっぱいなんだよ。
まぁ話を戻すとシンムと私以外の繋がり、精神リンクと言っておるが
今はそれすら遮断され、どういう状況かも把握出来ていない。
相手がどんな方法を使って精神リンクを遮断させ来世の時を悪用しているのかが分からない以上、
こちらとしてはもうフェアンの消滅も視野に入れるしかなくなってしまった」
フェアンは俺にハンドガンらしき物を手渡した。
「ファイスの能力がどのような物になるのかは知らされていないがフェアンの消滅を選択するのは
フェイスが決めるようにセファイスが決めている。
自身の判断で行動しなさい。
私としては仲間が消える事は望まないが来世の時が悪用されている以上、
セファイスの負担も大きくなる。
このままではセファイスの消滅、即ちこの世界の消滅に成りかねない。
溢れ出した魂の行方など想像もつかない。
大変なことに成りかねないので私の私情は無視してくれて構わない」
俺は小さく頷く事しか出来ない。
「セファ、頼むぞ!」
「はいはい、やればいいんでしょ」
相方は相当やる気が無いようだ。
流れ的に選択の自由を奪われたかのように俺が使命を全うする事が決まってしまった。
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